「我が家の一番大きな食器」 (2000/08/12) |
今朝、妙に腹が減った。まだ六時。 冷蔵庫には相変わらず食料が少ない。水とお中元のビールがあるだけだった。 今日から盆休みということで、一週間もこの部屋を空けるために、買い置きを控えていたからだ。 食べ物といえばスパゲッティしかない。これを茹でることにした。我ながら パスタには自信がある。エクストラバージンオイルにたっぷり目の塩で茹でたパスタは いつもアルデンテだ。イタリアを一瞬なりとも目指した甲斐はある。しかしあいにく具がない。 缶詰のミートソースで今回は間に合わせよう。朝から普通食わないような気もするが・・・。 まだ眠気眼で麺を茹で、その間に電子レンジで缶詰の具を温めることにした。 缶詰は直接温めるなと注意書きがあったので、パスタ用のお皿で温めた。 これなら麺をこのままお皿にあければ、洗う手間も省ける。名案かと思われた。 寝ぼけていたために台所周りの段取りが悪かった。まな板の上に具入りの皿を置き、 その中に麺を入れ込んだ。10分間の即席イタリアンの出来上がりだ。しかし、 今朝は麺が多かった。しかもすでにミートソースが用意されているため微調整が効かなかった。 麺とミートソースが溢れ出した。あああ。やっちゃったと思いつつ、あふれた麺を皿に 盛り付けなおそうとした、まさにそのとき。何かの弾みで皿はずるりとスライドし、 中身がすべて流し台に流れてしまった。 ああああ。 せっかくのアルデンテの名品が・・・・。 唯一の食事が台無しだ。腹は減っている。新しく作り直そうとも、具はもうない。 しかもこれから一週間もこの部屋を空けるのだ。この生ごみの処分には困り果てる。 燃えないごみの日以外にこのごみを出すのは、教養ある人間のやることではない。 一週間も真夏の台所に置きっぱなしは厳しいものがある。どうしよう。 僕は寝ぼけていた。否、寝ぼけたままにしようと思った。流し台の無残な麺もよく見れば、 こんもり盛上っている。直接ステンレスに触れていなければ、それがお皿だろうが、 なんだろうが関係ないように思われた。しかも茹で加減には自信もある。 ひとすくいしてみた。んんん。美味い。 やはりパスタは茹で加減だな。もうすこし食べてみようかな。 ステンレスに触れていない部分を完璧な箸遣いで摘み上げているうちに、本当はステンレスに 触れている部分も掬い上げていることに気がついてはいた。しかし、ここは目をつぶって 食感だけを楽しもう。皿にはミートソースが若干残っている。味付けもよしだ。 こうしてみると持ち運びできないステンレス製の食器も悪くない。見ようによっては、 大皿料理を小皿に移して食べるのも行儀がいいではないか。 この後の続きを書くことは非常にためらわれる。ここらでやめにしよう。 ただごみの始末を気にすることなく、盆休みを楽しめることは確かだろう。 Copyright (C) 2000 Yuji Nishikata All Rights Reserved.
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