自費出版の目的地 (2000/12/16)
 

 最近仕事の関係で埼玉県某所の倉庫によく行っている。そこは自社製品の保管を委託している倉庫で、自社製品のほかにお菓子や婦人靴、CD全集などいろんな製品が出番を待っていて結構楽しい場所だったりする。先日も缶コーヒーを所長にご馳走になりながら、倉庫の隅に山済みされている本のパレットについていろいろ教えてもらった。
 パレットに堆く積まれた数万冊単位の本は、全て返品され焼却処分になった本だという。その多くは自費出版で作られた本で、本屋の棚に置かれることもなく、ある契約上の一定期間の経過と共に、この倉庫に集められ焼却されるのだという。ぺらぺらめくって見ると、なるほど誰も買いそうにない本ばかりである。自己陶酔型の小説、子供の成長を記した本や、詩集、どこかの異郷を旅した感想文、誰かが死んでしまって悲しいぞ系の本が、無残な姿でパレットに整理されていた。文章を書く身として非常に辛い現場であるが、これが現実なのだ。
 これらの本を焼却しても出版社自体には損害は発生しない。作者から出版費用は回収済みなので、万が一売れればそのまま利益になるし、売れなくても損はしない仕組みになっている。出版社が製本するだけで金になる自費出版に期待を寄せるのも妙に納得できたりする。商売出版社と製紙会社と輸送業者が儲かり、作成者だけが損をする。倉庫も利益を上げられるが、一冊何銭の世界では商売のうまみはなく、ただただ捨てる作業に寂しさも募るという。
 当の作者は自分の作品が誰かの目に止まり、共感を得られたかもしれないという満足に浸っているのだろう。200万円以上の出費をしてもなお、そんな満足に浸れるのなら安い投資かもしれない。しかし、倉庫に積まれた本は、かつて誰にも見られなかった本である。作者の思惑とはかけ離れた物流の仕組みの中で、ただA地点からB地点を経由してC地点に廃棄され、資源として再利用される。不毛である。そんな本が山積みされて、木枯らしが一層身に沁みる。辛い光景だ。
 本の業界も不況の風が吹いている。売れる本しか売れない。誰々という有名人が書いた本しか売れない。売れれば凄く売れる。この差は歴然だ。かく言う私も最近はワイン関係以外の本は買っていない。インターネットが普及し、無料の文章が氾濫している。文章の値段がどんどん値崩れしていく。あああ。寂しいぞ。
 いつもは楽しい倉庫にて、少し現実を思い知った日の出来事でした。

 落ちがないぞ。

以上

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