仏検における国際犯罪 (2001/11/27)
 
 先日横浜の某大学で、実用フランス語技能検定試験を受検した。いわゆる仏検3級と言われる試験である。英語のフランス語版といったところで、将来廃止されるとの噂がある日本国内でのみ通用する試験である。履歴書には二次試験がある2級からしか書けないので、敢えてこの試験を受ける予定はなかったのだが、マンネリ化しつつあるフランス語に喝を入れるため、試行を変えてみた。
 私が通う都内某所のフランス語学校の今のクラスは、初級本を一冊終えて、2冊目に突入し、2級を目指しているだろう人たちと一緒のクラスで、いまさら3級も木っ端ずかしかったが、銀杏並木のキャンパスを歩くのもイイかなと思ったりした。そろそろフランス語学習の成果を形として欲しくなったりしていたためでもある。

 フランス語検定試験は日本国内とパリで行われた。かつて某所で机を共にしたパリ在住の某氏も、なぜかこの3級を受けるらしい。ふと不埒な考えが頭をよぎった。パリと東京の時差は8時間ある。試験終了予定の3時半は、パリは朝の8時半のはずである。んん。Eメールが発達している今日、国際的なカンニングができやしないか。問題用紙の持ちかえりが可能ならスキャンして添付ファイルとして送れば、試験開始時間が例え朝からでも余裕のよっちゃんかもしれない。携帯電話に転送すれば、時計代わりと称して堂々と答えを見つけることも可能かと思われた。試験前のこの騒がしい胸騒ぎは、国際犯罪の予感からくるものだろう。
 携帯パソコンも準備して、それこそ準備万端に試験に臨んだ。携帯電話の使用不可の白い文字が黒板に浮かんでいる。あれれ、である。女子大生に囲まれながらの試験は、新鮮であるが、肝心の問題が簡単なのである。いわゆる対策本と称される絶対合格3級なんたらかんたら問題集は、かなりのボリュームがあり、聞き取り試験のテープも妙に難しかった。いまさらこの試験は落とせないよなと思いつつ、前日も前前日もワインを飲んでちっとも勉強しなかったため、落ちる覚悟もあった。なんだか拍子抜けである。知らない単語はあるものの、技術的な発想(消去法や質問の語尾への注意・組合せ)などでたやすく答えられてしまった。試験後配られた回答集と照らし合わせると、しっかり数問間違えてはいるものの、まあ合格ラインは超えているだろう。

 これでは国際犯罪が成立しない。パリ在住の某氏にメールしたところで、なんの意味もない。がっかりである。あの緊張感は、駅へと向かう銀杏並木の枯葉と共にあっけなく消滅していった。まあ某所に通ってはや2年。知らない間にこの位のレベルまでは到達していることが分かっただけでも、授業料を無駄にしなかった安堵感に包まれたりする。
 
 帰宅後パリの某氏からメールがあった。もしや答えを送らなかったことに怒っているかもしれない不安に駆られつつ開封すると、某氏も同じ感想を漏らしていた。試験が簡単過ぎて級を間違えたかと思ったらしい。彼からのメールを読むと、私の不埒な考えが、あさましかったことが分かった。なんとパリ会場の試験は前日に行われていて、しかも問題用紙回収され、回答集も配られなかったという。なるほど敵も去るものである。しかし、時差によるカンニングは防止できても、肝心の問題を簡単にしすぎては、敵の甘さを知るところである。

 まあこの歳になって大学で試験を受けるというのも悪くない。秋風そよぐキャンパスは、某女史の母校なんだと思う親近感が爽やかだったりする。さて2級は受けるべしか、2級合格の近道は国際犯罪の成立しかありえない、今の実力からは少し縁遠かったりする。地道に勉強しよう。


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