獺祭と梵ときしらず (2002/02/09)

 
 2002年3月号のdancyuの特集は「怒涛の日本酒」だ。dancyuといえば「一食入魂」を連載する小山薫堂氏目当てに一冊購入してしまうほどのグルメ雑誌である。そんなdancyuの28ページに先月湘南・葉山某所で頂いた名酒と今月湘南・平塚某所で頂いた名酒が隣り合うように紹介されていて、うれしくなってペンをとってみた。両方とも個人のお宅で乾杯させていただいたもので、この場を借りて感謝申し上げる次第である。
 この二本は代表的な酒米で造ったお酒を飲み比べる特集に紹介されている。山田錦代表として、山口の「獺祭」かわうそまつりと書いて「だっさい」と読む。一方、作付け面積第一位の五百万石を代表して、福井県鯖江の「梵ときしらず」である。ブルゴーニュワインを本格的に飲み始めて4年目突入の今日、日本酒に目を向ける余裕もほしいところだが、まだまだ道半ばにして日本酒は当面この二本だけに留めておこう。

 「獺祭」にもいろいろなバージョンがあり、私が飲ませていただいたのは最高級にランクする純米大吟醸「獺祭磨き二割三分」だった。精米歩合23%というとんでもない逸品。味わいはフルーティな日本酒の最高レベルを目指し、そして達成する実力であった。この甘めの飲み口にしてざらつかず、しっかりと余韻を残すタイプの日本酒には目がない。ふっくらとしながら、いくらでも飲みつづけられる旨み成分。山形の「十四代」や秋田の「とどりとっぺね」に共通するフルーティな芳醇は、やや冷やし目にぐごぐびいきたい名酒である。山形の「出羽桜」にも共通するが、こちらは温度がギンギンでないと甘味が舌に残りがちなため、「獺祭」とは違うカテゴリーに入るような気がする。日本酒を語らせたら右に出るものがいない山口県出身の某氏によれば、「獺祭」はビンテージによる格差が大きく、同じ味を毎年堪能するのはやや難しいという。どう違うのか。ぜひ播磨の山から下山してもらいたい御教授の名のもとに一杯酌み交わしたいところである。

 一方の「梵ときしらず」は淡麗辛口な味わい。頂いたものは純米吟醸酒であり、単純に「獺祭」と比べるには条件が違うが、この淡麗な味わいは、日本酒の通好みであろう。大人の味。甘い酒なんて飲めやしねえやと、いつのまにか江戸の大工に成り代わり、熱弁を振るいたくなる味である。しかし個人的な嗜好からすると、やや苦手である。私は焼酎のお湯割党にして、ロック派の辛口な味わいに一歩下がってしまうお子ちゃまなのだ。甘いほうが好きなんだからしょうがない。ただしこの「ときしらず」は、飲むほどに旨みが出てくる名酒には違いなく、文字通り時を忘れさせてくれる夢心地に到達しそうである。杯を重ねるごとにうまくなる酒。しかし、その夜はすでに芋焼酎が全身を駆け巡りすぎていた。三杯を数えることなく杯を置いてしまったふがいなさに面目ないところである。この酒の本当のうまさが三杯目からあるような気がして、後悔先にたたずである。2月初旬の室温で頂いた温度は絶妙で、本格的に飲むならば、一杯目からこの酒と対峙してこそなんぼの世界なのだろう。次回の機会をお願いする次第だ。

 「酒は飲んでも飲まれるな」最近かなり飲まれ気味だが、名酒はどんなに深酒しても翌朝の不快感がないところがすばらしい。混ざりっけなし。米と米麹の真剣勝負に、飲み手の度量が試される。次回は負けないぞ。
 

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