餃子の食べ方 (2002/02/14)

 
 昨夜、小田原某所の中華料理「大連さん」で、極上の餃子にブルゴーニュワインを合わせてたいへん満腹な夜を過ごさせてもらった。ご主人自慢の餃子はジューシーで野菜の旨みと肉の味わいが包み込まれた名品だ。いつ食べてもうまいぞ。先日もキノシタでもご一緒させていただいた某ご夫妻と、気まぐれが重なってのおいしい食卓。感謝であるが、ふとあることに気がついた。カウンターしかないお店で横一列に三人並んで食べていたのだが、餃子用の小皿の中身が一緒だったのだ。餃子といえば、小皿に醤油・酢・ラー油を適量入れて、肉汁がこぼれないように、それでいて中身の具にも調味料が浸るように食べるのが一般的だ。そのまま、何もつけずにかぶりつく人はあまりいないだろ。しかし、昨夜は違う食べ方だった。醤油を入れないのだ。小皿には酢と少量のラー油しかない。私はいつもこの流儀で餃子を頂いているが、まさか某夫妻も同じとは思わなかった。やはりである。一食入魂に共感するものとして、この食べ方しかないのだ。某夫妻も当たり前のように醤油はささない。なぜか。それは餃子がうまいから。こんなにもうまい餃子が、醤油色に染まって、醤油の味に支配されてしまうことは、見るに耐えない。邪道だ。素材の旨みが、醤油になってしまう。醤油味も決してまずくないが、この餃子の味を醤油で固めてはいけないと思うのだ。

 では、酢とラー油はいいのか。いいのだ。ジューシーな肉と野菜、柔らかい皮の出来立ての餃子は、酢で頂くと味が引き締まり、ラー油の辛味が食欲をそそる。小皿にも透明感が維持されて、見た目にも良い。醤油は出汁の旨みを半減させて、餃子本来の味わいを別な次元に変えていく。醤油によって味付けする必要のない完璧な餃子は、それだけですでに芸術だ。餃子の虜だ。餃子がうまい。最高。やっほー。

 しかしすべての餃子が醤油を拒むわけではない。うまくない餃子は醤油のありがたみが身にしみる。そして、残念ながら醤油がほしい餃子は結構多い。至極残念だ。うまい餃子は酢とラー油で、がんがん食べよう。結構、新鮮なおどろきがある。きっとある。醤油派のみなさん、醤油抜きの魅力的な世界に、どうぞいらっしゃい。

 ところで、今回はブルゴーニュワインを持ち込ませていただいた。三ツ星レストランを息子に譲り、ワイン造りに挑んでいる有名シェフの赤ワイン。ベリー系の赤系果実が特徴で、フルーティな味わいはさっぱりとした飲み応えで、食中酒としての本領を発揮している。価格もブルゴーニュの銘醸としては最も安い部類に入るので、比較的お買い得なワインである。そのワインを街の中華料理屋さんで、餃子と合わせる。うまーい。ジューシーな餃子の旨みに酢のさっぱり感が、赤ワインの酸味にばっちしだ。餃子もワインもきゅっと引き締まる。不思議な体験だ。中華料理と合わせるワイン特集なる雑誌も多く見かけるが、横浜中華街や都内一流中華料理屋に繰り出さなくても、ご近所で多いに楽しめるのだ。おいしい中華はおいしいワインにぴったり合う。ただ、街の中華一皿の価格とワインの価格は折り合いそうにない。何百円のお皿に2000円オーバーのワインは場違いだ。何が何でもワインに合わせるのも嫌味っぽいし、うちの酒が飲めねえのかと喧嘩も始まりそうだ。すっかり馴染みになった中華やさんで、ちょっと持ちこんでクイッとやるのがいい。ご主人にも、隣に居合わせた常連さんにもお酌して、こんな味もたのしっすね。そんな変化球気味の夜でも、ビール用のコップではワインの旨みが逃げる。ちゃんとワイングラスも持参するくらいの余裕もほしかったりする。ワインもグラスもワイン抜きもみんな持参。そしてワインのあとはこれまた持ち込みの日本酒「獺祭」で腹いっぱいだ。餃子はうまい。醤油抜きの餃子はうまい。ワインもうまい。餃子もうまい。みんな幸せ。だっさい。やせない理由が、どうやらここにありそうだ。


おしまい


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