フランス語の日本語起源節の否定 (2002/09/08)

 
 昔からフランス語の起源は日本語にあるのではないかという説がある。世界で最も美しいといわれる言語が日本語を起源とするならば、日本人にとってうれしいことではある。しかしこの節を唱える人達は極めて少数であり、今日ここにその論証を突破することによって壊滅的なダメージを与えようではないか。

 起源節を唱える人達が例に上げるものとして、「ぼったくりバー」が挙げられる。「昨日歌舞伎町で飲んだら、ビール1本2万もとられちゃって、まったくボラれたよ。」という会話に代表されるボル・ボラレルという動詞である。同じ意味の名詞を漢字で書けば暴利。日本語で「ふんだくられる」、「盗まれる」という意味の言葉が、あるときフランス人の耳に止まり、そのままVOL(ヴォル)という単語に変化したのだろう。上記の嘆きを約せば、「
Vingt mille yen,une bière.C'est du vol ! 」というフランス語になるわけである。VOLは同時に飛行機という意味もあるが、飛行機でフランスに帰るフランス人がいつまでも歌舞伎町での不甲斐ない夜を嘆きつづけたために、いつの間にやら意味が転じ、飛行機そのものを指す言葉になったようである。

 また、日本語起源節を唱える人が例に挙げる代表例にこんなものもある。「隣の空き地に囲いができたってねぇ。塀」という今では死語になりつつある駄洒落話である。当時一斉を風靡したこの話を、あるフランス人がいたく気に入った。そのままアルファベットで表記すれば、塀は「HEI」であるがフランス語風に書き改めれば「HAIE」である。フランス語ではHは発音しないので、読み方自体は「エ」となるが、「塀=haie」は揺るぎ無いものである。手元の仏和辞典を紐解けば、haieの意味は生垣、垣根とある。塀と垣根が同一の意味を有することは、周知の事実で、両者の若干のニュアンスの違いをフランス人に求めるのは酷というものである。仏和辞典に戻ると次ぎの単語は「haïe」。iの上にアクセントが付き、発音自体はアイユとなるが、この意味が笑ってしまう。「あ痛っ」(原文まま)なのである。垣根から落ちてそのまま叫んだ通りで、その情景が目に浮かぶというものだ。余ほど痛かったのだろう。そうでなければ垣根と痛いを同一スペルのアクセントの有無違いにするはずがない。

 この2例を挙げれば、なるほど日本語起源節を唱えるには充分な証拠になり得るだろう。しかし、第一の例はフランス人が歌舞伎町で飲んでいて、法外な金額を請求されたときに、VOL VOL VOLと連発していたのを日本人が書き留めていて、その後法外な値段を取られる人をボルと理解し、活用して「ぼったくられた」「ぼられた」となったと言えなくもない。第二の例にしても、「隣の空き地に囲いが出来たってねえ。カッコイイ」と変形されたオチには対応しきれず、起源節の否定論者の格好の題材になっていることも否定できない。

 いずれにしてもフランス語が日本語を起源とする節を裏付ける証拠はこの2例しかなく、容易に論破されるところを見ると、この節を肯定する訳にはいかないのである。

 と、ここまで清水義範風に書いてみたが、どうもこの後が続かない。ほんとすんません。


おしまい


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