モディリアーニの魅力 (2003/01/09)

 
 先日、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中のメトロポリタン美術館展 ピカソとエコール・ド・パリを鑑賞してきた。このメトロポリタン美術館はニューヨークにあり、いつかは訪れてみたいと思っていたが、東京での出会いに感謝しているところである。シャガールの「恋人たち」、バルテュスの「目を覚ましたテレーズ」、ルソーの「ライオンの食事」、ピカソの「盲人の食事」、などの名画の数々がコンパクトな会場にきれいに展示されていた。やはり名画はいい。1枚の絵がなぜ名画と呼ばれるのか。その理由はいとも簡単である。絵画自体が強烈なメッセージを発し、会場にオーラをもたらしているからである。

 会場内で目を引く名画があった。Amedeo Modigliani アメデオ・モディリアーニ (1884-1920)の「Reclinig Nude 横たわる裸婦 (1917)」である。いわゆる裸婦像というものは、自分の気持ちとは裏腹に、美術館で一人まじまじと見つめることに若干の抵抗感があるものだが、この絵ばかりは直視の上、その場から動けなくなるほどの衝撃があった。他所様からどう見られても構わない。食い入るように、というよりも目が釘付けというべきか、今まで、名画と呼ばれるものに対面し、その都度心に動揺が走ったが、ここまで身動きが取れなくなった絵も久しぶりだ。すごい。

 何が凄いかは、ポストカードや絵画集からは決して伝わらない。実際の絵は、まさにそこに「実物」の女性が横たわっていて、そのはじける瑞々しい肌を強烈に露にしているのだ。全身がうっすらと赤く染まり、瞳のない恥じらいにも似た表情とより一層赤く染まる頬。初めて絵に触りたいと思った。なぜ平面のキャンバスに描かれた絵が、こんなにも立体的に、かつ瑞々しく描き出されているのか。これは驚異である。モディリアーニがなぜかくも評価されるのか。この絵を見れば、一瞬にして納得するから不思議である。果たして、この絵の横に同じポーズの写真を置いたとして、この絵に勝れるものだろうか。その風景を想像しても答えは、NO。油彩で表現された美は、すでに官能の世界に達している。ブルゴーニュワインの官能と非常に共通していると思うのは、私だけだろうか。では、実際に裸の女性がそこで同じポーズをしていたらどうだろうか。これはちょっとうれしいが、やはり答えはNOだろう。モディリアーニの世界に引きずり込まれた身として、二番煎じでは満足できない体になってしまったような感じである。実物では表現し得ない何かがあるように思えて仕方がない。ここは主催者にお願いして、実際に比べさせていただければ幸いだ。ごっくんである。

 今回の展示会は、モディリアーニの赤と対照的に、パブロ・ピカソ
(1881-1973)の青も際立った印象を与えてくれる。青の時代の代表作にして、日本初登場の「The Blind Man's Meal 盲人の食事」(1903)だ。著作権上の問題があり、写真は掲載できないが、盲人がテーブルのワインをとろうとしている様が、なんとも心を打つ。ピカソの青の時代は個人的にあまり好きではなかったが、なんとも心に残る青であった。

 モディリアーニの赤とピカソの青。この好対照な絵を同時に楽しむことが出来るのだから、今回の展示会は見っけものである。この冬一番の感動が、ここにある、かもしれない。上京の折にはもう一度行ってしまいそうだったりするが、渋谷には今ひとつ用事もないが、ワイン売り場でも眺めつつ、重い腰を上げてみようかと思うこの頃だったりする。

ニューヨーク メトロポリタン美術館展 ピカソとエコール・ド・パリ
於 Bunkamura ミュージアム
2002年12月7日 - 2003年3月9日
出展 : ポストカード
アメデオ・モディリアーニ「横たわる裸婦」(1917)
油彩・キャンバス 60.6x92.7cm
The Mr.and Mrs.Klaus G. Perls Collection

註 モディリアーニはその死後50年以上経っており、著作権は消滅しているものとしてポストカードの写真を掲載しました。

以上

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