デフレ解消の奇策 (2003/01/31)

 
 ある昼時、久方ぶりに某ハンバーガーショップのハンバーガー三種類を食べてみた。時間がなく、ドライブスルーで買い求めたもので、合計223円。安い。缶コーヒーの120円が高く感じられる金額だ。これで普通のハンバーガーとチーズバージョンとフランクフルトタイプの三種類が楽しめるのだから、今更ながらこの価格破壊はなんなのだろうと実感してしまった。そういえば、最近この手の昼はトンとご無沙汰だったので、なにやら久しぶりの再会のような妙な感覚に浸りながら、ハンドル片手に食してみた。んーん。おいしくない。というよりまずい。パンがぺちゃんこで気持ち湿っていて、以前よりケチャップが多いのはいいのだが、何ともいえぬ酸味と雑味を感じた。昔はもっとうまかったのに、味が落ちている。どうしたものだろうか。不慣れなバイト君が調理したためだろうか、この店舗だけの事情なのか、よく分からないが、三種類とも食すに耐え難い味だった。それでも食い時が張っていたために、結局全部飲み込んでしまったが・・・。耐えてるじゃん、である。

 同じ日の晩。私は夜11時に国道一号線某所を愛車(フェラーリ(号))で走っていた。その日は昼に上記のハンバーガーを食べただけで、夜は食べていなかった。無性に腹が減っていた。その晩はかなり冷え込んでいたので、「ラーメンでも食べてあったまろうか」と沿道にラーメン屋さんを探したが、ラーメンというものは探すと見つからないものだ。ふと大手ちゃんぽんやさんの看板が目に入り、まあ似たようなものだと思い車を止めた。380円のちゃんぽんを注文するが、おばちゃんが一人で店を切り盛りしていて、なかなか料理は出てこなかった。まあ安いし、休憩がてらいいかと思って待つことしばし。普通ならとっくに店を出てしまいそうな時間にやっと出てきたちゃんぽんを見ながら、私はその日二度目の悲しさに包まれた。具が定規で測ったように隣のおやじさんのそれと同じで、改めてコスト削減の実態を痛感した。おそらく工場で大量に生産して、寸分たがわずに部材を用意して温めただけのちゃんぽんだった。そしてそのお味は。・・・。深夜でもあり、おばちゃんがひとりで数席分の対応を余儀なくされている。手が回らないことに同情すれど、怒りは込み上げてこなかった。なにしろ380円なのだ。深夜料金が10%プラスされるとメニュに書いてあるものの、380円の10%は38円。消費税込みでトータル438円だ。安い。やはり安い。そしてその安さと比例するかのように、その料理を口に運ぶごとに、言い知れぬ悲しみが込み上げてきた。その悲しみをふるい落とそうと周りを見渡すと、テーブルに肘をついて、まずそうに食べる人たちの不幸せそうな顔がいくつもあった。なんだかな。寂しさに拍車がかかる。

 結局、昼と夜あわせてご飯代に661円しかかからなかった。安い。しかしまずい。もっと高くていいから、一定レベル以上のものを食いたい。デフレが深刻化するなか、コスト削減もぎりぎりの線なのだろう。あとは何を切り詰めて価格競争に勝利するか。人件費は従業員ひとりではこれ以上切り詰めることはできまい。残すは、味わいそのものだろう。食材も調理方法も限界に達していると推測される。最終的に完成品の質、口に入るものの質を切り詰めるよりほかに何があるのだろうか。ついにここまで来たかという感がある。

 最近デフレを終わりにしようという動きが活発だ。いいことである。その切り札として、インフレターゲットの設定などが取りざたされているが、奇策として、この際デフレの象徴ともいえる激安ハンバーガーやワンコインご飯の味そのものを徹底的に落としてみたらどうだろうか。「とことん安いが極めてまずい。しかしおなかは一杯。」どうかな。一社単独で実行すると、その店は確実に倒産するので、コスト削減の真っ只中にいる安いご飯系の店舗がいっせいにその味を下げるのだ。そうすれば、今の倍お金を払うから、品質を上げてくれ、うまい飯を食わせてくれ、という要望がきっと高まるはずだ。その要望にV字反応しよう。一気にハンバーガーやちゃんぽんの値段も高騰し、デフレも解消できるのではなかろうか。我ながら相当安易だ。ほんとすんませんである。

 食は人の生死に関わる問題。コスト削減は寿命の削減につながりはしないか。安いがために、まずいものを我慢して食べ続けるよりは、あと少しお金を払ってそこそこうまいものを食べてみたい。うまいものには感動があり、明日の活力につながるパワーがあると信じる者にとって、食生活のレベルと維持しないと、味覚障害になって、何の感動も受けられなくなってしまうのではなかろうかと心配だったりする。今日一日の活力の源が、まずい飯でどうするのだ。。。

 しかし目先の安さにつられて、結局また某店舗に行ってしまう自分に、
 二重人格の兆候を見るような気がしないでもない。
 

おしまい
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