ゴッホっほ (2003/02/14)

 
 先日オークションで、ゴッホの「農婦」(婦人像を改題)が6600万円で落札された。

 故・中川一政さんの美術収集品168点のオークションが話題を呼んでいる。当初作者不明の婦人像が、鑑定の結果、ゴッホの作品であることが判明したからだ。一、ニ万円で競り落とされるはずだった絵が、ゴッホ作品と判明するや否や、落札価格が急騰し、6600万円もの値をつけたとのこと。

 先週このニュースを読んで、私はパリ・オルセー美術館でのひとコマを思い出していた。
 オルセー美術館には世界の名画が展示されているが、ここを訪れる日本人の多くが、団体旅行の集合時間の関係からか、せっかくの名美術館に来ているのにもかかわらず、名画の確認だけにとどまり、足早に次の部屋へと消えていく。日本人の団体客が、じっくり一枚の絵と対峙する姿はなかなか見かけることはない。私の知る限り、日本人の多くが、モネとマネの違いを認識しておらず、教科書で見た絵の前で、禁止されているフラッシュ撮影をしていたりする。オルセーのゴッホにも日本人が群がっていた。その光景が目に浮かびつつ、問題の農婦を見てみると・・・。
 
 確かに6600万円といわれれば、そう思わなくもないが、一万円の絵といわれれば、一万円の絵にも見える。実物を見たわけではないので、何ともいえないが、この絵に秘められたメッセージはなんなのだろうか。ゴッホ作と分からなければ、一万円だった絵。絵の価格は、その絵自体のメッセージからではなく、作者の由緒に影響されている。ゴッホならなんでもいいのか。人はゴッホを持っていることに価値を見出すのだろうか。ゴッホっほ。ゴッホを落札したのは美術館の館長という。この夏から全国6ヶ所で巡回展が開かれるというから、ぜひ拝見したいところである。このオークションからして話題性もあり、集客力もあるだろうから、結構人気の展覧会になるかもしれない。

 ワインの世界も一緒。一部の超有名銘柄に人気は集中し、非常な高値で取引される。ワインは需要と供給のバランスによって価格が決まり、希少価値が高いほど、価格は上昇する。絵画も同じ。すでに故人となった有名画家の絵は、火災や事故などで消滅することはあっても、増えることはない。作品数が明らかになっているだけに、今回の掘り出し物のような絵が話題を集めるのも無理はなく、これもまた絵画の楽しみの一つなのだろう。

 しかし、作者を確認せずとも、思わず足を止める絵は無数にある。そんな絵をじっくり鑑賞したい。往々にして私の歩を止めさせるのは、名画家が多いことも事実だが、(例えば先日のモディリアーニの横たわる裸婦やピカソの盲人の食卓など)、絵そのものを見て、ふと足を止めたくなる絵に出会いたいものだ。

 この夏、ゴッホの「農婦」の前で、「ああこれがオークションで6600万円で競り落とされたやつか」と呟きつつ、足早に消えていく人の姿が容易に想像できたりするこのごろである。


おしまい

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