あるシェフの死 (2003/02/27)

 
 ここ数日、完全に体調を崩し、個人的に辛い毎日を送っているが、あるニュースが私を震撼させた。それは新聞やテレビでも紹介されているが、フランスの三ッ星レストラン コート・ドールの人気シェフ ベルナール・ロゾワBernard Loiseau 氏の自殺である。新聞によれば、 同じくグルメ雑誌の「ゴー・ミヨー2003」がコート・ドールの評価を19点から17点に格下げ(20点満点)したのを悲観し、自殺したとのこと。なんということだろうか。

 レストラン コート・ドールは、ブルゴーニュ地方にあり、私も次回のブルゴーニュ訪問の折は、ぜひ訪問したいと思っていたレストランだ。未だ食したことのない料理ではあるが、彼の知名度は高く、「いずれ近いうちに」と思っていた矢先の事件だった。詳細は不明だが、氏はかねてより星を減らされたら自殺すると同僚にこぼしていたという。

 レストランの格付け同様、ワインにも点数制の評価がある。ロバート・パーカーに代表される100点法や、ブルゴーニュ・オージュデュイで採用されている20点法、あるいはミシュランと同じく三ツ星を採用する「ル・クラスモン」など各誌によって評価方法は違えど、点数によってそのワインや造り手を評価している。これは人事ではない。

 俗に「命がけで仕事をする」というが、点数の重みによってこんな悲劇が待っていようとは、至極残念でならなかったりする。点数には賛否両論あり、結論は未だ出ないが、シェフの自殺という衝撃が、今後の評価方法に影響を及ぼすのかわからないが、こんな形で一石を投ぜずとも、と思うと悲しくなってくる。

 氏が真にお客のための料理を作っていたのか、評価本の評価のために作っていたのか知る由もないが、今発売中の料理王国「パティシエの仕事」の99ページで微笑む氏の瞳が、いかにも寂しそうに見えるのは残念でならない。

 ところでこのニュースの時、日本でのレストラン評価の話題になり、そこで上位にランクされるレストランのインタビューがあった。食後に「みかん」をくれることで有名な某店のシェフは、評価自体を気にしていないと言いつつも、自身のレストランが高得点をマークしている事実を知ると、妙に顔もほころんでいたが、キッチンはそれほど綺麗には使われておらず、顔色の悪い笑顔も気になって、ここに予約の電話をいれることはないだろうと思ったりもした。

 いずれにしても、レストランやワインの評価点数や星の数を見る目が少し変わる悲しい出来事である。合掌。


おしまい

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