異空間中華 (2003/03/05) |
某日、久しぶりに中華料理を食べた。場所は東京 台東区池之端。東京藝術大学に程近く、千代田線根津駅が最寄り駅のようである。その中華は、今までの中華と次の二点で違う味わいだった。一つ目は場所。そこは日本観光旅館連盟会員の旅館だったのだ。その旅館の一室にて宿には泊まらずに、日帰り
? にて食す。そして二点目はその味わいだ。お上品な味わいというのが、この味を最も的確に表現しているのだろう。二つの点とも、ちょっとびっくりした。
その旅館の名を「山中旅館」という。文人に愛された場所柄そのままに、江戸情緒を残す風情ある門をくぐり、玄関へ。予約の名を告げて、ある一室に通された。ん。事前情報と少し違う。訪問の直前に雑誌類で確認したところでは風情ある洋館の一室か、あるいは和の佇まいだった筈。通された部屋は、いかにも保養所といった趣で、会社員の合同研修で宿泊地として使われそうな、まさに旅館だった。門から玄関までの空間と、玄関かせ部屋までの空間がとても繋がっているようには思えないところが凄い。まさにビジネスホテルの部屋を思わせるドアを開けると、一段上がって引き戸がある。手前左側にトイレ、右手にはお風呂場を改造した物置部屋があった。ここは見るんじゃなかったと少し後悔する。開かれた引き戸の向こう側には四人がけのテーブルがあり、食事の準備がされていた。んんん。まさにここは、ちょっと前までシングルルームだったような佇まいではないか。ここにベッドを置いて、今はスピーカーが置かれている棚にはかつてそう遠くない過去に、テレビがあったであろうことは容易に想像がつく。ちょっとびっくりだ。昔トイレがあったであろう場所には、中華風床の間が配置され、なんとも異様な空間であった。中華風BGMが同じメロディで奏でられ続けるところもちっと変かも、である。 しかし目が慣れるとここは完全な個室である。一風変わっているといえば、その通りながら、なかなかの異空間を演出していて、目が慣れればOKかもしれない。これもありかなと気を取り直して、食事を頂く。 今日のメニューは、昼のティータイムメニュだ。都合三名でビールを飲みながらレッツ・ゴー。お皿は一皿ずつサービスされ、ころあいを見計らって数名の担当者が、かわるがわるお皿を持ってきては下げてくれる。完全な個室にて、ちょっと違和感を持ちつつ食事は進む。まるでどこかに隠しカメラがあるのではと思わせる絶妙のタイミングで、給仕のスタッフがやってきてくれる。いやいやそんな下衆な考えはよくない。スタッフの一人が同じ料理を別室で食べていて、彼のお皿がなくなり次第、われわれの部屋のお皿が交換される様でもあり、なんか変だと思いつつ、いい感じでもある。こんな感覚は初めての体験で、お皿ごとに変わる担当者も次は誰が来るのかという違う楽しみも出来たりする。 春野菜の和え物 胡麻風味・・・・胡麻タレが甘くていい感じ。 鯛のXO醤煎り焼き・・・・・・・・・・・もう一切れ欲しいぞ。 カニ肉入り3色スープ・・・・・・・・・・豆の風味がいい感じ。 牛肉の中華風ステーキ・・・・・・・・もう一切れ欲しいぞ。 イカとからし菜の和えそば・・・・・・イカがうまい。そばはきしめんとほうとうの異母兄弟みたい。 清湯スープ・・・・・・・・・・・・・・・・・さっぱりいい感じ デザート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・中華のお菓子だ。 ジャスミン茶(コーヒー・ウーロン茶から選択)・・・うめぇ。 一つ一つの料理の詳細は省略する。お箸でいただいたが、どれもフォークとナイフで頂きたくなるような趣があり、ソースが違えば一見フレンチ料理かと見まがうばかりだ。この味は面白い。中華というと油を豪快に使って、大胆な味わいかと思いきや、このギャップが面白い。季節感に溢れ、そしてなによりお上品だ。上品に「お」をつけたくなる繊細な味わいは、時に甘めに、時に油抑え目に、時に辛めに彩られている。なかなかいい感じである。 場所は文豪の町、池之端。山中旅館の一室。レストランの名を「古月」という。 上野公園でデートをするなら、昼はここで、ゆっくりくつろぎたい。シングルルームを改築したこの個室で繊細な中華を楽しめば、個性豊かでワンランク上の食事が楽しめることだろう。情報によれば、新館と旧館があり、和洋二種類の部屋があるという。雑誌類ではお洒落な旧館が紹介されているようだが、いつものコラム的には、俄然こっちの新館バージョンをお勧めしたい。社員研修に来たような錯覚に陥りつつ、まったくの異空間で、繊細な創作中華を楽しめば、きっと新しい展開が期待できるからだ。上野の裏に異空間あり。ちょっと幸せかも。 おしまい Copyright (C) 2003 Yuji Nishikata All Rights Reserved.
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