世界ナンバーワンを目指せ (2003/05/17)

 
 自慢ではないが、私はナンバーワンになったことがない。学生時代を振り返っても、大学をでてからの歳月を見回しても、ナンバーワンになったことがないのである。これは、意外に寂しいことではなかろうか。世間では、ナンバーワンを目指すより、オンリーワンを目指せなどと、ありがたいような、逆に難しいような、そんな励ましを受けたりする。しかし、ここはひとつ世間の流れに逆らってナンバーワンを目指そうではないか。

 さしづめ何でナンバーワンを取れるかと無い知恵を絞ってみた。旅先でふと、思った。ここはジュブレ・シャンベルタン。憧れのグランクリュ街道を歩きながら、ふと思った。諸般の都合により、毎日、来る日も来る日も毎日、私はジュブレ・シャンベルタン村とモレ・サン・ドニ村を歩いて往復していた。村と村の距離はおおよそ3キロ強。片道小一時間の距離である。そこを毎日往復していたのだが、ふと気がついた。この道を往復するフランス人は多いが、彼らは皆、車でだ。歩いて往復する地元民は皆無なのだ(自分調べ)。フランスは自転車競技の盛んな国なので、競技用の自転車でグランクリュ街道を突っ走る人たちとは何度も会う。しかし彼らもまた自転車で、なのである。歩いて往復する人はいないという現実がここにあるではないか。

 もしここに、ジュブレ・シャンベルタン村 - モレ・サン・ドニ村徒歩による往復回数選手権があれば、確実に優勝できるのではなかろうか。確実だ。ついに自分的なナンバーワンを勝ち取る日が来たことに、気付いてしまったかもしれない。行きはよいよい、帰りはなんとやらで、重い足を引きずりながらジュブレ・シャンベルタン村に向かう足取りも自ずと軽くなる。目指すは、自己最高記録だ。記録を更新し続けることで、確固たる勝利を勝ち取ろうではないか。ナンバーワンの喜びを知ってしまったかもしれない。これがナンバーワンというものなのか。やった、である。

 しかしナンバーワンの喜びはそう長くは続かなかった。ある朝、いつものようにグランクリュ街道を歩いていると、ジョギングをするおやじさんとすれ違ってしまった。う。明らかに地元の人である。この人は毎朝、ジョギングしているのだろうか。となると、私の打ち立てた記録が宙に浮いてしまう。ジョギングと徒歩は違うと言い聞かせても、おやじさんのスピードは、ゆっくりとしていて、徒歩との差はあまりないように思われた。やばい。記録は破られたかもしれない。

 ようやく見つけたナンバーワンをかくもあっさりと譲るわけにはいかない。私は再び無い知恵を絞った。するとひとつのアイデアが浮かんだ。ジュブレ・シャンベルタン村 - モレ・サン・ドニ村徒歩による往復回数選手権の出場要綱に、「ユニクロのリックサックを背負って」という条件をつけたらどうだろう。フランスにユニクロは無い。けだし名案である。私は、「ユニクロのリュックサックを背負ってのジュブレ・シャンベルタン村 - モレ・サン・ドニ村徒歩による往復回数選手権」の優勝者として長く栄誉をたたえられるのである。すばらしい。これぞナンバーワンの証である。

 ん。しかし、である。この「ユニクロのリュックサックを背負ってのジュブレ・シャンベルタン村 - モレ・サン・ドニ村徒歩による往復回数選手権」の出場選手はひとりしかいない。そう、私しかいないではないか。これではナンバーワンではなく、オンリーワンだ。がっかりかもしれない。

 人は、条件を絞り込めば必ずナンバーワンになりうる。しかし、その条件の足かせは同時に、オンリーワンとしてしか存在させない危険性をはらんでいる。オンリーワンを目指すとき、どんな条件が課せられているのか注意しないと、オンリーワンであることとナンバーワンであることが同じ意味を持ってしまい、それは井の中の蛙的ナンバーワン、オンリーワンになりかねない。

 おおお。だんだん何をいいたいのか、わからなくなってきた。混乱しているが、それでもなお、私の打ちたてた「ユニクロのリュックサックを背負ってのジュブレ・シャンベルタン村 - モレ・サン・ドニ村徒歩による往復回数選手権」でのナンバーワンの記録は今でも破られていないこともまた、重要なのだ。

 ようは、それだけが言いたいいつものコラムなのであった。
(不作につき更新履歴にも載らないかも)
 

おしまい
 


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