しゅっしゅしゅ (2003/07/17)

 
 愛知県某所にて新聞を読んでいると、ある訃報に釘付けになってしまった。

 坂口祐三郎氏が13日に脳幹出血で亡くなられた。享年61。

 坂口氏を知る人は少ない。しかし仮面の忍者「赤影」の赤影と聞けば、ピンと来る人も多いだろう。あの赤影の赤影なのである。僕らのスーパーヒーロー赤影がこの世を去った。この衝撃は、赤影の再結成を断念させるとともに、幼い頃、テレビにかじりついていた、あの当時を偲ばせるに余りあった。鼻に親指を当てて、くるりと回転させながら手を開き、「だいじょうぶ」と答える青影の姿も、燻し銀的な白影の横顔も、すべてがまるで昨日のことのように思い出され、そしてその無茶苦茶格好よかった赤影が、もはや参上しない事実を受け止めたりする。

 特撮時代劇「赤影」の本放送は1967年から1年間という。ん。おかしい。私の記憶とその年号は合致しない。その年号は、私には物理的にも生物学的にもその視聴を実現させないからである。そうか。そうだったのか。放送から35年の歳月を経て、私は当時見ていた「赤影」が実は再放送だったということを思い知る。なんだ。再放送だったのか。そんなこととはつゆ知らず、赤い仮面は誰なのか、結局その素顔を拝見することなく、(いや、嘘である。たしか以前その素顔をテレビ画面に見つけたことがあり、がっかりしたこともあったような気もしないでもない・・・)、いずれにしても僕らのスーパーヒーローがまた一人、この世を去ってしまった。


 そしてこの訃報記事を読みながら、目には熱くこみ上げるものがあり、耳にはあの手裏剣の音が重なってきた。

 しゅっしゅしゅ。赤影が逝く。合掌なのである。


おしまい


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