成分献血 (2003/08/01)

 
 某日、社会貢献と自身の健康管理をかねて、某所献血ルームにて成分献血を行なってきた。恥ずかしながらというべきか、遅ればせながら、というべきか、人生で初めての献血は、意外なほどあっさりと終わり、立ち眩みなどをするでもなく、淡々とした日常に戻ったのだった。

 某所の献血ルームは意外に混んでいて、ウェイティングルーム?にも数名がその順番を待っていた。私はロッカー近くのテーブル席に腰掛けて、無料のジュースを飲みながら、雑誌や新聞などを読みつつ、初めての環境に早く慣れようとしていた。受付で記入した過去の病歴や同性愛歴?などのペーパーを持ってルーム内に入ると、献血ベッドが10席近く用意されていて、ほぼ満卓の状態だった。中では看護婦さん?が忙しく歩き回っていた。入り口近くの囲みのあるテーブルには、おやっさんが座っていて、どうやら先に血圧を測るらしかった。気の優しそうなおやっさん(または医者?)に血圧を測ってもらいながら、何気に壁の注意書きを眺めると、意外な連絡事項を目にした。なんとそこには、フランスを含むヨーロッパ数国を1980年以降に6ヶ月以上滞在した人の採血は行わないと書いてあるではないか。

 「え。私それ、もろに該当します。」と素直に告白すると、「まあ、大丈夫でしょう」というなぜだか曖昧な回答をもらった。なんでもBSE問題があり、結構神経質になっているようだが、帰国後3週間以上経っていることと、現在病気治療中でないことなどから、まあ、その質問はしなかったことにしようみたいな感じで、献血の前に採血しますので、隣の囲いの席に移動してねと優しく誘導されたりした。大丈夫なのかなあ、私の血は役に立つのかなあと心配しつつも、隣のこれまた気の優しそうなおばちゃんに両腕を差し出し、採血開始。おばちゃんによれば、私の腕は両方とも献血にはもってこいの腕らしく、妙な褒められ方をした。どうやら私の腕は、注射針を挿入しやすい肉質のようである。人間、褒められると、ちょっとうれしくなるものだ。

 一旦ウェイティングルーム?に戻って、準備までのひと時、お茶を頂く。水分は多めに取ってくださいと言われたので、いつもより多めにがぶ飲みしたりして、間の持たない妙な時の過ごし方をした。こういうときは隣の人と談笑するものなのだろうか。献血ルームから始まる愛なんてのはあるのだろうか・・・・。不埒な考えが横切りつつもようやく名前を呼ばれて、ついに献血ベッドへ。歯医者さんの椅子のようなそれは、靴を脱いでリクライニング状態にされ、優しくブランケットを腰から足にかけて羽織られた。テーブルのテレビは好きなチャンネルにしてねと言われ、献血の説明が始まる。成分献血は、血液すべてを採取するのではなく、必要な血漿?だけをとり、あとの血液は体内に戻されるという。5回に分けて、少しずつとりますので、小一時間かかりますとは看護婦さん?の弁。慣れた手つきで左手を固定し、採血モードに。他の人たちは、慣れた様子でスタッフらと雑談しているが、私は見るものすべてが初めてで妙な緊張感とともに、せわしなくチャンネルを変えたりしていた。ふと気がつくと、私の足が、ブランケットからでていて、丸見えだった。他の人の足はすっぽりと布で覆われているのに、私の足だけむき出しだった。「靴下臭ってないよな」といらぬ心配を抱えつつ、一人だけ足がでている状態は少しばかりバツも悪かったりした。

 小一時間後、無事献血が終了した。自分の血がチューブを流れていく様にはもっと拒絶感があるものと思っていたが、何のことはない大した痛みも感じず、血を見てびびることもなく、あっけらかんと終わってしまったのだった。なんだか少し拍子抜けした。腰の低いフレンドリーな看護婦さん?に感謝の言葉を頂戴し、最後に念のため血圧を計る。「血圧は採血前より若干高めですが、特にOKですね。これが極端に低くなっちゃうとあせっちゃうんですよね。それから献血から2時間以内はビール飲んじゃ駄目ですよ。って未成年じゃないわよね」と笑顔で話かけられた。私を未成年者と間違えるとは、なんとすばらしい目を持つ女性ではないか。もっと血抜いていいよ。すばらしい。しかしふと我に返り、彼女の人を見る目を、ある意味疑いながら照れ笑いを隠しつつ出口へ向かう。しかし、いくらなんでも未成年はないよなあと思いつつ、照れ笑い。受付では、献血手帳を渡されて、次回は2週間後から献血できますと営業?された。これってネタかな。まあいいか。お土産にTシャツもらって外へでた。そこは、いつもと変わらない街の風景だった。

 この街には、おからが世界で一番うまい某居酒屋もあるし、この季節はトマトの天ぷらを食べさせてくれる天麩羅の名店もあるし、マティーニに旋風を巻き起こす某バーもあるし、鮑飯でお世話になった某小料理屋もある。献血のあとの爽やかな気持ちをそれらのお店で過ごしたい。しかし、2時間後でないとビールは飲めないという。しかも未成年者はお酒が飲めないことになっている。致し方ない。今回は勘弁してあげよう。梅雨が明けそうな空を見上げつつ、私はそそくさと駅に向かったのだった。私の血は役に立つのかなあ。

 相変わらずオチはないけれど、このコラムの趣旨は、「私が未成年に間違われた」ということにしておこう。


おしまい


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