博多を巡る冒険 その10 バー編 (2003/12/09)

 
 今年3月に旅して以来久しぶりの博多訪問であるが、今回のツアーもかなり濃い内容になり、関係各位に感謝と共に、すこしばかり記してみたいと思う。

 博多の街はとても活気に溢れ、飲み屋さんや食べ物屋さんで、偶然隣に居合わせた人たちや店員さんともすぐに仲良くなり、おいしい食事がより一層楽しくなるから幸せである。そして短くも奥深い博多の夜の最後はハードリカーやカクテルを飲み、素敵な夜に酉をとらせたくなるのは、極々自然な流れのように思われる。地元では藤沢某所で極上のカクテルやバラエティに富むノンアルコールカクテルを楽しませていただいていて、逆にこのレベルのお店でないと心の底から幸せ感を満喫できないジレンマに陥ることも多いが、今回は幸運にも博多でも一、二を争う名店と呼ばれるバーに行くことが出来た。店は、地下鉄の赤坂駅より徒歩10分くらいのところにある。大名と呼ばれる地区で、店の名はバー・オスカー。

 「夜のにぎやかさ」が心躍らせる通りに面するビルの6階にこの店はあり、一見すると隠れ家的でもあり、会員制を意識させ、ママさんがいそうな、そんな雰囲気も店の看板から感じることも出来る。事前情報が無いと少しばかりためらいがちなお店ではあるが、ひとたび入店を許されてしまえば、カウンターがでんと構える落ち着いた雰囲気のバーであることに気がつくのにそう時間はかからないのである。

 ここでは、マティーニを注文した。すでに常連客と思しき数名の男女が、静かに、されど楽しいお酒を飲まれていて、その輪の中に入れてもらいつつ、飛行機の時間が迫っていることにも気づいてしまった。本来ならば、ゆったりとした時間を過ごしたいものだが、いかんせん駆け足の旅ゆえに、滞在時間は10分しか確保できなかったのである。事情を説明し、無礼を詫びつつ、どうしてもお邪魔したかったお店につき、この無謀ともいえるわがままを許してもらおうと思ったりした。10分間では何とも判断しにくいが、バーテンダーさんのお人柄、客層、内装のバランスもよく、今度ゆっくりと落ち着いて博多の夜を静かに過ごしたいと思いつつ、一時間後に迫るフライトを気にし、そういえば、ぎりぎりまで「街」を楽しめる空港の近さに感謝しながら、マティーニを一気に飲み干したりした。

 思えば、お気に入りのバーというものは、何年も通って気がつくものではない。初めて入って、初めてのカクテルを注文して、目の前にサービスされたその瞬間に、気に入るか気に入らないかの判断できると思う。そのバーが、夜景を重視しているのか、カクテルの味にこだわっているのか、ゆったりとした空間にこだわっているのか、大人の夜を演出しているのか、ワイワイガヤガヤとした喧騒の夜にしたいのか、表面的な美しさに惑わせつつ商売に走っているのか。その判断は、たった一杯のカクテルで判断が出来、お店やご主人とのフィーリングがぴったりと合えば常連になるのだろうし、合わなければ、飲み干す前にお会計を済ますことにもなったりする。ある意味、一瞬の勝負であるように思われるが、世界中のあちこちにあるバーの中から、自分と相性のいいバーが見つけられるなら、それはとても幸せなことである。

 バー・オスカー。

 私の一瞬の感性が、また来たいといっている。次は、ゆったりと過ごしたいものである。


おしまい


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