ロンフウフォン (2004/01/03)

 
 東京で最も予約が取れないといわれている話題の中国料理「ロンフウフォン」に、昨年幸運にも三度訪問させていただいた。この場を借りて関係各位に感謝と共に、その感動を記録しようと思ったりする。

 年も押し迫った12月30日。いつものメンバー(大森さん(仮名)含む)とともに過ごすロンフウフォンでの夕べは、2003年を締めくくるに相応しい食空間であり、柳沼シェフが造り出すクリエイティブな中国料理と森田さんの極意とも言いたいサービスに感銘を受けつつ、ブルゴーニュの古酒に身を預ける様には、生きている喜びをヒシヒシと感じるのだった。当日は、不覚にも前日から風邪の諸症状が見え隠れする万全とはいえない体調ではあったが、おいしい料理に舌鼓を打ちつつ、素敵な夜は更けていった。

 メニュはいつものおまかせ10品コースを注文。ここへ来たら必ず食べなければならない大定番のピータン豆腐だけを指定して後は森田さんに一任。牡蠣のミルキーで滑らかな味わいに心奪われ、フキと乾燥芋の炒め物の食感に感動しつつ、次から次へとやってくる柳沼ワールドにどっぷりとつかり、森田さんの和み系サービスに食は進み続けるのだった。最後は聖護院大根の焼きそばでフルコース。一皿ずつに盛り分けられた料理は、それほど多くはなく、隣の席では食べ盛りの子供たちと一緒にやってきていた夫婦たちに優先的に料理が運ばれつつも、やはりスローフードのペース配分だった。思うに、食べ盛りの子供たちにはロンフウフォンの料理は厳しかろう。ラーメンやチャーハン、餃子がドカンと出てくる街の中華やさんの方が安心して腹いっぱいになるだろうにと余計な心配をしつつも、私は森田さんのサービスの一挙手一投足に注目するのであった。けっしてイケメンでもなく、ナイスなスタイルではないサラリーマン的なワイシャツ姿の森田さんのサービスは、なぜだか見ていてとても安心するから不思議である。

 ところでワインは、森田さんの提案でモエ・エ・シャンドンのノンビン・シャンパーニュをそのまま注いだバージョンと、デカンタしたバージョンの両方を楽しむ。同じシャンパンでも二度おいしい不思議な食感に、心のウキウキ感は高揚していくのだった。モエ・エ・シャンドン社のシャンパンは生産量が膨大で、輸送経路によりピンからキリまで味わいが異なるが、ロンフウフォンのそれには細心の注意が払われているようで、品質は最高である。おいしいシャンパンは、「こうでなくては」と思ったりする。シャンパンのあとは森田さんお勧めのブルゴーニュの古酒をいくつか楽しむ。これがまた歴史の重みと静かなる時の流れを感じさせ、至福の時は続くのだった。

 巷ではロンフウフォンをして、およそ中華料理とは思えないクリエイティブな料理と、昔カラオケスナックだった独特の空間と、それにもまして予約が取れないということで幾度となく話題に上るが、当の森田さんは「うちの料理はいろいろ言われていますが、火の通し方は伝統的な中華なんです」という。なるほど。基本は中国料理の伝統を継承し、森田さんをして「私が一番好きな味です」と言わしめる柳沼シェフの極上の料理の数々。ここに新たなる中国料理の息吹を感じるから凄い。自分が好きな料理をおいしいタイミングでサービスする森田さん。ワインや中国茶のセレクトもお人柄を反映し、どうりで私たちいつものメンバーにはとても心地よいから毎回通いたくなるのだった。

 森田さんは、なおも続けてくれる。「フレンチは晴れの料理でしょうが、中華は毎日の料理。食材にこだわり、毎日安心して食べられる料理を心がけています」という。むむむ。いい言葉だ。毎日でも通いたいっすという言葉を飲み込んで、来年は19日から営業を開始するという柳沼-森田コンビの活躍と、近日中の再会を祈りつつ、おいしい食卓はいつのまにか紹興酒に彩られていくのであった・・・・・。

 2003年。おいしい年に大感謝なのである。


おしまい


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