鎌倉 以ず美 (2004/01/18)

 
 今年最初の外でのお鮨は、(内的には、お正月に近所のお鮨屋さんの今ひとつどうもという出前を食べ、某ファミリー宅の新年会では、胡麻を利かせたプロ顔負けの美味しいお鮨を頂戴したりしていたが・・・)、鎌倉の長谷の大仏に程近い、「鎌倉 以ず美」であった。

 3年前に茅ヶ崎から当地に移転したという「鎌倉 以ず美」は、雑誌やガイドブックで紹介される有名店である。江ノ電 長谷駅から海岸に向かって歩いて2分くらい。もう少し歩けば、そこは由比ガ浜である。カウンターが8席、テーブル席と奥座敷があるようで、当日はカウンターは満席であった。

 ここはご主人の服装に特徴がある。普通は、白で統一されているものだが、黒を基調とした斬新な衣装?とワールドカップのベッカムを彷彿とさせるヘアスタイルから発せられる独特のオーラを楽しませてもらいつつ、肴を少し造ってもらう。今宵は牡蠣が圧巻だった。滑らかな食感とコクのある深い味わい。美味である。お酒と焼酎の銘柄もお酒好きにはたまらないラインナップで、極上の一杯を飲みながら、ご主人の一仕事入った肴を食べ続けたくなる気持ちを抑えながら、すしを握ってもらうことにする。

 「うちは鮨を握ってなんぼですから」と語るご主人に、お任せして、握りがスタート。美しい包丁捌きの白イカ、柔らかく甘みのある蛸、手渡しされるウニ、深みのあるアナゴ、脂の乗ったアジ、手巻き寿司等々、鎌倉の名士たちを唸らせているであろう鮨が次々と登場する。シャリ(ごはん)は硬めで、厚手のネタの食感をたっぷりと楽しませてもらえる。ネタの順番にもこだわりがみられ、途中に玉子焼きを挟んだりして味わいのメリハリをつけてくれるところもまた、よしである。振り返ってみれば今宵の圧巻は、シンコとシメサバであった。「この時期のシンコは珍しくて、今夜はラッキーですよ」と語るご主人。コハダと間違えて、ちょっとバツの悪い私に、シンコの豊かな磯の香りが鼻腔を刺激し、うっとうなる。知ったかぶりはよくないなあと自戒しつつ、照れ笑い。シンコの一枚付けはかなりの小ささ。味わいは淡白ながら、この香り立ちは、ちょっと感動ものだ。そして、サバである。五島から取り寄せたそれは、はじめ2枚ズケで頂戴し、あまりの美味しさにお代わりをお願いして、今度は開いて出してもらう。とろける鯖の食感が痒いところに手が届いたようで、すばらしく心地も良い。うまい、である。

 ご主人は、無口である。もくもくと鮨を握り、絶妙のタイミングで出してくれ、ネタの説明は特にない。こちらから問いかけた時だけ、静かに答えてくれるところもまた、この鮨を特徴付けたりもする。しかし、鮨を握り終え、デザートのメロンを食べる頃には饒舌になり、お鮨や酒の話で盛り上がる。自身の鮨にプライドと哲学を持ち、最近流行の鮨のスタイルとは一線を画し、相手にもしないその姿勢には、決して譲らない「鮨道」を見るようである。

 つくづく、鮨はご主人との相性次第と思う。たしかにこれほどまでの名店になれば、味わいの個性はあるものの、美味で共通するオーラがある。あとは人と人との相性だろう。ご主人の個性を楽しむ鮨。自分との相性がバッチしあえば、これほど心地よい瞬間もなく、ハッピーな気持ちになれるからありがたい。

 鎌倉は微妙に遠いが、鮨を目当てに、鎌倉を散策するのも悪くないだろう。

 おまけ : 洗面台はケヤキをくり貫いて作られているようで、その肌触りは癖になりそう・・・


おしまい


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