「そのフェラーリください !」 (2004/01/23)

 
 聖典版「そのフェラーリください !」清水草一著 三推社/講談社 が、面白い。

 本書は、1992年6月より雑誌「ベストカー」にて連載された「フェラーリ曼陀羅」の約二年半分の原稿を一冊にまとめたものと、その後出版された2冊を合体させて、聖典版として復活されたものである。タイトルからも推し量られるとおり、筆者は「地上唯一の自動車芸術」であるところのスーパーカー フェラーリをこよなく愛し、世の中の自動車をフェラーリ様(原文まま)と、月面車を含むそれ以外に分けるほどの熱狂振りで、大乗フェラーリ教の敬虔な信者(といっても信者は1名らしい)として、その思いは読み手に熱き魂を伝えてくる。あとがきで筆者も指摘するように、本書には「なんて熱いんだ! なんて初々しいんだ! 完全に気持ちが空回りして文章も空回りしている」文章が、お笑い交じりに綴られていて、読み手をすっかりフェラーリファンにしつつ、ページをめくらせるのである(ただし後半は結構ダレルかも・・・)。

 率直な感想を言えば、氏は、なんてアホなんだ、である。アホは関西弁で言うところのアホと同義語であり、最大級の褒め言葉。関東で言われる馬鹿とは全く意味合いを異にしているので注意して欲しい。全身全霊を捧げながら、憧れのフェラーリ様について熱く語り、故障が多くても、まっすぐ走らなくても、国産車に負けても、保険料が死ぬほど高くても、ついには憧れのフェラーリ様を購入する件は、読み応えも十分。一直線に自分の信念を貫く様は、箱根駅伝の山登りにも似て、強烈な共感を呼ぶから面白い。

 そして、ふと思う。氏のフェラーリ様に対する思いと、ブルゴーニュ魂のブルゴーニュワインへの思いは、微妙なニュアンスこそ違うが、概ね同じではなかろうか、と。「あっこの人、同じだ」と思わせる結構無茶苦茶だが、熱い思いが伝わる文章は、読んでいて妙な親近感を覚えるから不思議である。

 氏が工事中のアスファルトの段差を気にしながらフェラーリ様を走らせるように、ブルゴーニュ魂にも数十年の歳月を物語る澱を気にしながら、銘醸ロマネ・コンティをロマネ・コンティ専用グラスにゆったりと注ぐ日が近いことを予感させる。(本当かな、本当であって欲しい・・・)。

 ブルゴーニュ魂の愛車は、(号)が末尾につくもののフェラーリ(号)だ。大乗フェラーリ教のお経を唱えながら、氏と同じ熱き思いはロマネ・コンティへと向かうのだった。どうか、どなたか私の予感を的中させてやってください。よろしくお願いします、である。いずれにしても本書は、フェラーリをこよなく愛する人と、フェラーリに乗ってみたいと思う人には必読のような気もしつつ、自動車業界では結構浮いてそうな、そんな名著だったりもする。

 ぜひ。

 本書は遊べる本屋「ヴィレッジ・ヴァンガード」以外の本屋では見かけたことはないが、是非一度手に取ってもらいたい一冊ではある。本書と弊サイト「WINE DRINKING REPORT」を交互に読むと、結構面白いかもしれない。(つまんなかったら、すんまそん)


おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2004 Yuji Nishikata All Rights Reserved.