三ツ星レストラン その2 (2004/03/16)

 
 先日のブルゴーニュ合宿では、ガイドブック「MICHELIN LE GUIDE ROUGE」で最高峰の評価・三星を得ているレストランを訪問し、楽しい食事を堪能することが出来た。この場を借りて関係各位に大感謝なのである。フランス国内に20数店ある三星レストランの中で、今回はパリの「ル・サンク」と「タイユバン」、シャニーの「ラムロワーズ」の三店も行ってしまい、それぞれの個性と素敵な食空間を共有させていただき、今後の食空間のありように一撃を投ずる結果となった。

 いわゆる三星レストランは、タイヤメーカーのミシュランが勝手に評価付けしているもので、ホテルのように玄関先に星の数を明記したりしていないが、その評価は世界中が注目する一大事であり、星の数によってシェフが解任されたり引き抜かれたり、食の世界の華々しさと影を同時に映し出している。そのミシュランが認める三ツ星レストランの食事やワイン、サービスはいかがなものか。三店を比べることで、いろいろと発見があるから面白い。

 今回は、特にお気に入りのタイユバンについて、ちょっと触れてみたい。

 タイユバンといえば、なんと言ってもワインだろう。極上ワインがオンリストで騒然と並ぶ様は、圧巻で、リストを眺めているだけで十二分に幸せになれるから不思議である。タイユバンのカーブの中できっちりと熟成を終えた80年代や90年の極上ワインが、市場価格を大幅に下回る価格で提供されていて、タイユバンでの食事に壮大な花を添えているのだ。平たく言えば、高いものが安く、しかも熟成させて出てくる、という感じである。逆に低価格帯のワインは普通の価格設定で、安め追求型の消費者には普通に、しかしある一線を越えた人たちには、輪をかけて幸せをもたらしてくれているかのようである。ワインリストには、残念ながらアンリ・ジャイエの名を見つけることは出来ず、ソムリエに切望したものの、リッシュブールなどは一年前に在庫切れした旨の説明が後に続くだけだったりした。もしも私がタイユバンに週に3回くらいやってくる常連で、たまにはアンリ・ジャイエが飲みたいなあと切望すれば、どんなビンテージでもどんなアペラシオンでも容易に出てくるのだろうが、そんなことは絶対ありえないわけで・・・、まあまあ、ではある。ちなみにオンリストを見渡してみると、コシュ・デュリのコルトンシャルルマーニュの1997年が○○ユーロ、ジョルジュ・ルーミエの憧れのミュジニ1988が○○ユーロだった。(伏字は行ってのお楽しみ、ということにしよう・・・)

 またタイユバンの特徴と言っていいのかわからないが、食事のメニュには日本語バージョンも用意されていて、併記されているフランス語を指差せば、アラカルトでも何でもたやすく頼むことが出来、恵比寿にもタイユバンの支店があるのでそちらもよろしくと何気に営業されたりするのも一興だ。フランス語が出来ることに越したことはないが、(フランス語能力はスタッフとの意志の疎通を確立し、食空間をより豊かなものにしてくれる)、英語にも不慣れな人たちにも自分の頼みたい料理を食することが出来る日本語メニュは、日本人客の多さを想像させつつ、これはこれでよしなのだろう。

 ところで、ラムロワーズが平面的な食空間(エントランスからウェイティングルーム、レストランへと続く同一階的な空間と言う意味。もちろんホテルも兼ねているので、トータルで見れば立体的なのだが・・・)とするならば、タイユバンは立体的で縦の食空間との印象を受けた。タイタニック号の内装よろしく豪華な階段をのぼり、中華風の個室に通されたのだが、高い天井に見られる立体的な空間装飾が目にも鮮やかで、ワインリストの充実振りと並び、三ツ星レストランでの素敵な食空間を見事なまでに演出してくれている。ラムロワーズがオーベルジュちっくな寛ぎ感を表現しているとすれば、タイユバンはオペラハウス的な立体的豪華さを体感できるからうれしくなる。またサービスを担当してくれたスタッフもジョーク好きで、三ツ星から想像する堅苦しさを、朗らかに崩してくれるところもすばらしいかもしれない。本来ならば、もっとフォーマルに決めることも出来そうだが、ブルゴーニュ魂的にはどうしても朗らか路線に導いてしまい、ご一緒させていただいた参加者にはこの場を借りて、どうも、ではある。

 三ツ星という格式と緊張感。そしてその場を意図的に和らげてくれるスタッフの心遣い。レストランが食事を楽しみ、会話を楽しみ、空間を楽しむところと意識するならば、タイユバンはまさしく評判どおりの居心地のよさがあり、ワイン好きには垂涎しすぎるリストを眺めつつ、素敵な夜は更けていく。ぜひお勧めしたい三つ星レストランである。


つづく

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