些細な親近感と勝手な優越感 (2004/05/17)

 
 某日。小雨の降る終電間際のJR飯田橋駅のホームで東京行きの電車を待っていると、隣に立っている男性の携帯電話が鳴った。遅れ気味の電車に暇をもてあそびつつ、その男性の方を見やると、なにやら見覚えのある携帯電話が目に入った。

 「ん。同じ機種の同じ色だ。」

 私の携帯は、かれこれ二年前に買い換えたものだが、2年も経つと(当時でさえもちろん最新機種ではなかった・・・)巷で同じ機種を見る機会はめっきりと減り、しかも同じ色ということで、久しぶりに出会った同士のような親近感を持ったりした。「奥さんと話しているのかなあ・・・」街の騒音に消され、電話の声は聞こえてこないが、男性の表情は、まんざら悪くない内容のような顔つきだった。

 男性の携帯電話に興味を覚えつつ、顔を覗き込むように眺めていると、おっと思った。彼の携帯電話もアンテナ部分のプラスチックが壊れているではないか。アンテナがスクッと伸びてくる部分が、私のと同じく、割れているのだ。おおお。同じ機種の同じ色の、なおかつ同じ箇所の割れ。なんという偶然なのだろう。これには俄然親近感を覚えるというものだ。何も知らない男性に微妙な親近感を覚えつつ、電話の加減でこちらを向いた男性と目が合わないように避けたりした。

 しかし、男性の視線を回避しながら、ふと、微妙な違いに気がついた。男性の「割れ」は外側に向かっており、内向きの私のとは、割れの向きが違っているのだった。外側に割れてたんじゃ、ちょっと恥ずかしくない? 恥ずかしいよう。外側の見える面が割れているのに平気で使えるよなあ。あはは。「勝ったかも(自分調べ)」・・・。

 私の思惑などついぞ知るよしもない男性は、ホームに入ってきた電車に携帯電話を胸ポケットにしまいながら、私に「同じですね」と声をかけるでもなく隣のドアからするりと乗り込んだのだった。

 以上、日常生活の些細な親近感と勝手な優越感の報告でした。
 
おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2004 Yuji Nishikata All Rights Reserved.