砕け散ったグラス (2004/06/04)

 
 某日、自宅の机に向かい、メゾン・ルロワの2000年のオーセイ・デュレス・ブランをテイスティングしながら、パソコンで文章を書きつつ、本棚の本をいくつか探したりしていた。ワインはとてもいい感じで、ルロワはうまいなあと思いながら、しかしそれはテイスティングの域を超え、かなり飲み進めてしまったりした。今振り返ると、同時に三種類の動作(パソコン、試飲、文献探し)をこなすには、少しアルコールが入ってしまったようで、机に備え付けの本棚から重めの洋書をよっこらしょと引っ張り出した時、私の肘は思いっきりINAOグラスを直撃し、豪快な音を立てて砕け散ってしまった・・・。

 「いてて」と声を立てつつ、右ひじを見るとガラスが見事に突き刺さっており、グラスは美しい砕け方をしつつ、その破片は白熱灯の光を浴びて美しく輝いていた。そして久しぶりに眺める自らの「流れる血」にドギマギしながら、割れ具合が芸術的なカーブを描くグラスには、少量のワインの中に細かいガラス片が沈んでいて、それはあたかも酒石酸のようにキラキラしていて、私を不思議なワールドに誘ってくれていた。深夜の自室でキラキラ光るガラスの破片と重い色合いの自らの血。このコントラストはちょっと覚醒的かもしれない・・・。

 幸いにして、パソコンへの被害は全くなく、絆創膏で覆った肘が、そのガーゼを滲ませつつ、少しだけ痛々しかった。深夜の部屋で這い蹲りながら、ガムテープで床の破片を拾う様はかなり寂しいものがあり、せっかくのワインの余韻も砕けとび、やはりテイスティングのときは、集中力が大事なのだと実感するこの頃だったりする。

 今夜の教訓 = 試飲中は重い本は探すべからず・・・。違うかな。

 そういえば、今年に入って初めてグラスを割ったなあ・・・。


おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2004 Yuji Nishikata All Rights Reserved.