「回転スシ世界一周」 (2004/07/17)

 
 「回転スシ世界一周」 玉村豊男 光文社刊が面白い。

 この本は数年前に出版されていて、最近文庫化されたものというが、世界中にブームを巻き起こしているスシに注目し、パリ ロンドン アムステルダム ニューヨーク ロサンジェルスのスシ屋さんを実際に訪問するという壮大かつ明確なテーマに基づいて書かれている名著である。筆者はワインの世界では知らぬものがいない有名人であり、その著書も50冊を超えるという。その筆者をして一番面白い本と言わしめるからには読まずにはおられず、またスシではなく鮨をこよなく愛するものとしても興味は津々だった。

 この本を、パリからの帰りの飛行機内で読み、感じたことがある。それはふたつあって、まずは異国の地で回転スシを成功に導くそれぞれの経営者のセンスのよさに、ふむふむふむと感心し、日本のそれとは違う食品安全基準や食の嗜好性に格闘する様が面白い。そう、それはスシをビジネスとしてとらえ成功する様が面白いのだ。そしてもうひとつは、意外な感想かもしれないが、そこに出てくる「スシ」を食べたいとは思わなかったという点だ。文頭でカラー写真で紹介されている世界中のスシはカラフルで斬新的かも知れないが、江戸前鮨とは全く違う食べ物に相当の違和感を持ったりしてしまうのだった。文中、海外のスシ屋で日本人の職人を採用しない理由として、握りでも巻物でも、スシを一つ一つのパーツに分解され、醤油をべったりとつけられ、会話に夢中で放置される様を見れば、職人として精神衛生上よろしくないからという件がある。妙に納得、あはは、である。

 海外のスシと江戸前に代表される鮨とは、発音は同じでも全く違う食文化があり、日本人にとっての鮨またはスシと、海外における外国人(というかそこでは地元の人)にとってのスシでは、思い描く絵も違うのだということが本著から垣間見られ、自分的には、日本発の食の展開に興味は踊れど、箸は動かず、といったところが面白かった。

 私は職人の握る鮨が食べたい。そして日本人にとっての鮨とは何か。今一度文化論的なところに視点を置きつつ、「ハレ」の日につきものの鮨とは何か、そして日本人にとっての「ハレの日」とは何かを考えさせてくれた。江戸前鮨好きにはやや抵抗感がありつつも、スシ好きにはたまらない名著となりうる本著は、もう一度読み返してみたくなるから、結構刺激的かもしれない。

 スシを巡る冒険は、つづくのである。是非お勧め。


おしまい

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