香港への道 福臨門編 (2004/10/06)

 
 香港で素敵な食事は、「福臨門魚翅海鮮酒家」にて。

 ここは、日本在住の某氏をして385回(推定)、また違う某氏をして138回(推定)ほど通わせ、某夫妻をして二泊三日の香港での食事は全てここで楽しんだ、というほどのお店で、中国料理の頂点に君臨するといわれる名店だ。某ガイドブックには広東料理の超一流店と紹介されているが、その噂は、ロンフウホンや葉ちゃんで美味しい中国料理を食べるごとに、わが身に降りかかり?、自分的には必ず行かねばならないと思わせるほどのレストランなのであった。そして同時に今回のフランス合宿を香港経由にした最大にして唯一の目的なのであった。

 「あっけない美味しさ」

 巨大化した期待を抱きながら、たった一人でお昼を食べた素直な感想を、9文字で表現するならば、上記の言葉になるだろう。化学調味料を一切使用しない優しい味わいは、食べた瞬間には味がないかもと思わせるほどの薄さを感じさせるが、しかし遅れてやってくる素材のうまみをしっかり楽しませてくれるので、なんとも美味なのであった。ぷりぷりのスープ餃子は、熱々のため舌を火傷させてしまったが、その火傷の違和感の周辺は、うまみ成分を敏感に感知し、自然のうまみの微妙なニュアンスに心が揺すられる思いがした。例えて言うなれば、フィリップ・パカレとシャソルネイの自然派系ワインを足して二で割ったようなニュアンスを想像し、どちらかといえば、パカレ寄りに傾斜したような味わいは、ワイン好きには分かってもらえそうな比喩かなと思いつつ、やはり少し違う例えの方がいいなあ、ではある。要はあっけないほどの薄口で、派手さのない滋味なうまくち、という感じである。

 ところで今回は、たったひとりで、それも11時半の開店とを待って入店したため、お客はしばらくは私しかおらず、10人以上いると思われるスタッフの視線を感じるようで感じない雰囲気に戸惑いながら、どうも一人でレストランに入るのは苦手だなあと思いつつも、スタッフは片言の日本語を話すので、今日のお勧め料理を4点ほどお願いし、待っている間に頼む予定のないワインリストなど拝読させてもらったりした。私に遅れてやってきたグループは、しばらくは日本人が続いて、ちょっとそれもどうかなと思ったりしたが、12時を過ぎると地元の人々もカジュアルな格好で押し寄せて、あらよというまににぎやかな店内になったのだった。今回は、炭焼乳猪骨、筍尖鮮蝦餃、魚翅灌湯餃、香麻紙包蝦を楽しみ、その香り立ちや染みこむうまみ、熱々の温度などをたっぷりと楽しませていただいた。料理は一皿ずつサービスされ、お皿を平らげた瞬間に大勢いるスタッフの誰かに下げられ、お茶も少し減るとすぐさま足されるという凄いサービスだった。お皿に残ったタレなど少し舐めたいなあと思いつつ、お皿はあっけなく下げられていくのであった。

 食事の最後には、名物のマンゴープリンを楽しみ、これもまたあっけないほどの淡い味わいで、しつこさも派手さもないが、落ち着きのある味わいは、なるほどこの味が人をひきつけるものなのかと思わせてくれる。いやいや、うまかった。来てよかったと思いながら、会計を日本円にすると4000円くらい。超一流店にしてこの金額ならば、安いといわざるを得ないだろう。価格もビックリ。うれしい、のである。またここはお正月以外は休みもなく、超一流店にして予約も要らず、服装もカジュアルでいいようなので、かなり使い勝手もいい中国料理のお店の面も持ち合わせている。追記ながら、お昼と夜とではシェフが違うらしく、その味わいもまた違うらしい。今度は、夜に挑戦したいと思いつつ、夜だとますます一人では入りづらいなあ、でもいいか、である。

 香港の「福臨門魚翅海鮮酒家」恐るべし。是非一度お試しあれ、である。


おしまい

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