ニュー・イヤー・コンサートの異変 (2005/01/04)

 
 毎年、お正月の楽しみと言えば、ウィーンフィル交響楽団の演奏によるニューイヤーコンサートだが、今年は、ちょっとした異変が起こってしまった。先のインド洋の大津波の被害状況を配慮して、お祭り的な要素が強いラデツキー行進曲の演奏が見合わされてしまったのだ。

 ラデツキー行進曲と言えば、このニュー・イヤー・コンサートで、「美しく青きドナウ」に続いてアンコールの最終曲目として観客も総出で拍手喝采のリズムをとることで知られているが、新年のお祝いに欠かせないこの曲が、事態に配慮してカットされてしまった。これは甚大な津波の被害を鑑みれば、やむを得ないと思いつつも、今年のニュー・イヤー・コンサートのプラチナチケットをようやくゲットした人たちには、とても悲しい思いをさせたに違いないだろう。ラデツキー行進曲をウィーンの地で、一緒に拍手でもって参加することこそ、このコンサートの最大の醍醐味だからだ。いつだったか、このコンサートを含むツアー料金を見かけたことがあるが、そのときは旅費等全て込みで、80万円くらいだったかと思う。貧乏旅行ばかりしているものにとっては、かなりの金額だが、年末年始の繁盛記で、なおかつニュー・イヤー・コンサートのプラチナチケットも含まれているのなら、一生に一度のチャンスと思えば、納得の価格だったりする。

 今年はニュー・イヤー・コンサートではおなじみのロリン・マゼールの指揮で、アンコールにこたえた彼の挨拶には日本語も含まれており、そのときの拍手から想像するに相当の日本人客がいたものと推測されるが、彼らはとても例外なことに、ラデツキー行進曲に参加できなかった唯一の観客になってしまったようだ。彼らの動揺は知るよしもないが、こんなこともあるんだなあ、それほど大津波の被害は世界的な出来事なんだなあと、思いを新たにしつつも、今年はお茶の間のテレビで鑑賞しててよかったと、不謹慎ながら思ってしまった自分の器の小ささを嘆きつつ、ラデツキー行進曲が演奏されなかった2005年という年は、後世にわたり、その理由を訊ねられれば、インド洋の大津波と答えざるを得ない事態に、ウィーン(ヨーロッパ)、インド洋沿岸各国、日本のお茶の間があっという間に狭い世界に思われ、地球規模の災害の恐ろしさと、世界の狭さを感じたりするお正月だったりした。

 ラデツキー行進曲を、心の底から楽しめる日が再びやってくることを祈りたい。


おしまい


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