甲府の内緒のお店 2 (2005/02/02)

 
 先日、日頃大変お世話になっている某氏にご紹介頂いた甲府某所の割烹○○にて夕御飯を食べる機会に恵まれた。某氏にこの場を借りて感謝すると共に、ご一緒させていただいた某氏と某氏に感謝なのである。

 私はちょうど一週間前に、某氏にお誘い頂き、ここのお昼を堪能させていただいていた。そして、大方 (? ていうのかな)の予想通り、ここの味が忘れられず、遠方にもかかわらず(他人調べ)、今回は夕飯にチェレンジしてみたのだった。三人でお邪魔したが、他にお客さんはなく、思いがけず貸しきり状態となってしまった。私はフェラーリ(号)の運転が残っているため、ホット烏龍茶を注文しつつ、ふたりは熱燗をちびり、ちびり、と・・・楽しそう。熱燗は、すゞ製の器で。すゞは日本酒のうまみを最高に引き出すため、このすゞを手に取った瞬間から、某氏(いつものブラッスリーのオーナー)の目は、ご主人とその手元に釘付けになったのだった。

 「ここには本物がある」と察知してからに、フランス料理の歴史からレシピまで熟知している某氏にとって、歴史上指折りのハッピーレストランの予感が漂っているようであった。「うちは、おまかせしかないよ。(普段は飲むのに)酒を飲まない人には、ちょっときついかもなあ」と言葉少なく、私たちの方を見たご主人に、よろしくですとお伝えし、夕飯はスタートした。

 ご主人は本物素材を、最適な調理方法を用いて次々とお皿に盛っていく。素材それぞれには食べやすい大きさがあり、それぞれに違った火の通し方がある。それらを熟知するご主人の仕事には、無駄がなく、そして美しかった。「美しいものは、美しいものからしか生まれない」という某シェフの言葉を噛み締めつつ、出てくる料理のそのたびに、うまいと小さく感想をこぼしたりした。

 そして、感じる。ご主人は、明らかに私たちの食べ方をみている、ということを。私たちの食べ方や、時折溜息交じりに漏れてしまう感想を、明らかに背中で察しているはずなのだ。カウンター越しに、私たちは緊張感をもっている。私たちの「食」に対する姿勢を、包丁捌きの合間に、見定めているといった緊張感をもちつつ、私たちとて美味しいものを絶対に食べたいという気合を箸捌きに表しつつ、それはあたかも決闘のごとく、お互いの間合いを確認しあっているかのようだった。

 ここには、よそもんに食わせるものはないと思われてしまったら、私の負け。

 むむ。こいつら意外に、食いもんのこと知ってるなと思わせて、いい物を出させたら私たちの勝ち。

 そんな暗黙の駆け引きに、背筋も伸びるというものだ。ブラッスリー・オーナーの某氏によれば、ご主人の技法は、フレンチの技を踏襲していて、お料理自体は和食には違いないが、従来の和食にはない魅力を感じるという。そして次から次へと出てくるお料理に、いちいち感激し、溜息をもらす私たちに、最後に出てきたものは・・・。

 カツサンドだった・・・。
 
 これってもしかして負け?

 この割烹からは想像しにくい意表をついた攻撃?に、ますますご主人のワールドに引き込まれていく。なぜならば、とてもうまいのである。どうやら一皿出すたびに、ただ黙々と食べ続ける三人組をして、腹減ってるんだなと思わせてしまったらしい。本当は冷やし中華にするか悩んだと、本音を漏らしてくれるご主人と、野菜の切り方や魚の煮方についていろいろご指導いただく。

 食後にお茶を頂きながら、さっきとは打って変わって団欒のひと時。ご主人と最近の味覚破壊の話で盛り上がり、小学校の給食事情や、マヨネーズやファストフードに慣れきってしまっている人たちの味覚についての危機感を共有したりして、とても有意義なひと時を過ごさせてもらった。(この話は午前中に訪問したキザンの土屋さんともしてたような気がするが・・・。)

 すばらしい食事を堪能し、途中でいなくなった奥さんを探す振りして駐車場まで見送ってくれたご主人に挨拶しつつ、ふと思う。これでまた、「おいしいの基準」が上がってしまったことを・・・。今まで美味しいと思えていた料理が、明日からはきっとそうは感じないに違いないだろう。本当にうまいものを食べてしまって、逆説的に巷の美味しくない料理の多さに目を覆いたくなるのだった。

 しかし、幸なことに家の近所には、この割烹を経験しても尚、うまいと思わせてくれる名店が神奈川県にもいくつかある。小田原のあそこと、大磯のあそこと、平塚にはあそことあそこ、藤沢にもいろいろ・・・。

 美味しい御飯に感謝しつつ、美味しい御飯が急速に減少している様が、いとかなし、なこの頃であるが、甲府に行く度に必ず寄らせてもらいたい症候群に感染してしまったのだった・・・(笑)。

 おしまい


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