お箸の持ち方 (2005/02/09)

 
 先月末に創刊された「笑う食卓」という雑誌(日頃お世話になっている某女史が編集に携っています)や、お世話になっている某氏のHP「アネモネアニの旅日記。-人生美味し。」では、お箸の持ち方にスポットをあてた文章が掲載されている。

 なるほど、と思う。

 私もお箸の持ち方には、かなりのこだわりというか、線引というものを意識していて、お箸の持ち方がすばらしい(というか普通の)方と食事をご一緒させていただくと幸せな気持ちになり、逆に、とても美しい女性と食事をさせていただいていても、お箸の持ち方がポンポコリンだと、100年の恋も冷めるというか、視野から外れるというか、なんだかとても寂しい気分になる。その雑誌によれば、日本人の半分がお箸をきちんと持てないという。とても残念である。

 かくいう私も油断していると、「寄せ箸」や「ねぶり箸」などのタブーも犯してしまったりすることもあるので、あまり大きな声ではいえなかったりするが、美味しい御飯(たとえば、甲府の某割烹や平塚のnononaさんなどの和食屋さん)を頂く時には、特にお箸の持ち方に注意している。きちんとお箸を持つと、不思議と背筋もピンと伸び、美しい姿で御飯を頂戴することができるからだ。もちろん魚もきれいに食べることもできる。そして何よりそのお料理のおいしさを、心の底から楽しむことが出来ると思う。

 しかし、お箸の持ち方を酔いにかまけて粗末にしていると、猫背になったり、なんだか美味しいものに対しての誠意を表すことができなくなり、我ながら意気消沈してしまうのだった。そして厨房からの視線は、確実にお客さんの箸使いに集中しているとも思われ、お箸の持ち方一つで、お客を見定められているような気がしているのは、私だけではないと思う。

 カウンター席は、ご主人とのキャッチボールが楽しいところ。もちろんおいしい料理が大前提だが、ご主人が寡黙であればあるほど、お客としての振る舞いに緊張感を持たざるをえず、厨房が美しく整理整頓され、出されるお料理に魂が込められていようものなら、お客の箸使いひとつでその場を盛り上げることもできるだろうし、早く帰んないかなビームを浴びせられることになるかもしれない。

 入魂のお料理は、きちっとしたお箸の持ち方で頂戴したい。

 なぜって。それはお箸の文化に育まれた日本人の作法だから。

 外国の方が上手にお箸を使いこなす姿を見るたびに、お箸がちゃんと持てない日本人に違和感を覚え、そんな人とご一緒しようものなら、なんだか御飯の美味しさが半減してしまうのだった。お店で御飯を頂く時も、どなたかのご自宅に招待された時も、自分ちでも、お箸をきれいに持つように日々心がけていれば、きっと美味しいものは向こうからやってきてくれるものと信じつつ、とても大切な人がポンポコリンなお箸の持ち方をしているときは、手元には視線を移さずに、たとえば御飯を作っていただいたご主人の背中や壁にかけられた装飾品でも見ていようと思う。

 個人的に、正しいお箸の持ち方は、お客としてのハッピー・レストランへの入場券だと思う。


おしまい

目次へ    HOME

Copyright (C) 2005 Yuji Nishikata All Rights Reserved.