うまい スパゲッティ ナポリタン (2005/03/22)

 
 神奈川県の平塚市は、夜の歓楽街を擁する大人の街の一面を持っている。そして、その風俗店が並ぶ一角に、お目当ての洋食屋さんはある。そのお店に行くためには、その数メートル手前で、呼び込みのお兄ちゃんに「ちょっと遊んでかない。5000円ぽっきり」などと誘惑され、ちょこっとだけ、そこがどんなところが知ってみたい好奇心を押さえつつ、自制心を働かせながら、洋食屋さんの方に入店するのだった。

 四人がけのテーブル席がふたつと、カウンターが5席ほどの小さなお店は、昔懐かしいレトロな雰囲気をそのままに、幾多の景気不景気の波に惑わされず、現役で顕在していた。私がカウンター席に座って、はじめにしたことは、メニュを広げることではなく、どこかに掛けられているに違いないカレンダーを探すことだった。

 今が、本当に2005年の3月なのか。まずはそれを確認したかったのだ。もしかすると、何かの拍子に、1960年代に戻ってやしないかと心配になった。あいにくカレンダーは発見できず、正確な時代の確認はできなかったが、視角にはないテレビからの音声や他のお客さんの会話からして、どうやら2005年の今日のままのようだった。

 で、メニュを見つつ、スパゲッティ・ナポリタンを注文してみた。実はこのとき、某氏らと都合3名で入店し、別々のメニュを頼んだのだが、出てきたタイミングは、ほぼ同時だった。ご主人が一人で調理し、そう大きくない調理場から、チャーハンとグラタンとこのスパゲッティをほぼ同じタイミングで出してきたのだった。これぞ、プロの仕事と思いつつ、スパゲッティをフォークでくるくる巻いて食べてみたのだった。(スプーンなんて代物はついてこない。これが王道かも・・・。)

 う。

 なんだか知らないけれど、うまい。

 このスパゲッティ・ナポリタンは、スパゲッティというよりは、居酒屋の焼きうどんに、その太さも固さも似ていて、いわゆるアルデンテという概念は、この星には存在したことがないかのような錯覚に陥らせてくれる。太目の麺には鰹節ではなく、ケチャップベースのソースが絡みつき、意外に具も盛りだくさんだったりするところが嬉しい。

 そもそも本場イタリアには、ナポリタンというメニュはないという。ナポリタンは日本人が造り出した家庭の、または洋食屋さんの定番メニュ。昔母が作ってくれたスパゲッティに似ているようでまた違う味わいに、頭は混乱しつつ、あらよっというまに、食べつくしてしまった。量的には、このスパゲッティだけでは、少々物足りなさを感じるため、他の定番メニュとの併用がますますお腹を喜ばせてくれるに違いないと思うが、このなんとも不思議な、そして郷愁的なスパゲッティは、私の心に何かを訴えかけてくれるのだった。700円台の何気ない幸せ。

 この不思議な街の洋食屋さん。昼間は営業しておらず、夜だけのよう。

 お店の名は、ミラノ。

 うーん。いい感じ。


おしまい


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