話題のフレンチレストラン (2005/04/09)

 
 先日、某有名ブランドと某有名シェフのコラボレートによって、東京銀座のど真ん中にオープンした某フレンチレストランで、ランチを楽しむ機会に恵まれた。ここは巷では日本屈指のフレンチとの評価も高く、有名なソムリエも多数在籍していることでも知られていた・・・。

 結論から言えば、すでに冒頭から伏字から察するとおり、私の好みには合わなかった・・・。

 100人もの席は満席で、大変な盛況ぶり。平日の昼間に、おしゃれに着飾ったご婦人方が楽しく談笑する様は、日本にバブルが再来したのかと目を疑いたくもなる光景ではあったが、食空間のビジネス的な成功に圧倒されもした。豪華な内装と銀座の一等地。一流のシェフの技術と情熱が、日本で再現され、ここはまさしく日本の食文化の頂点に君臨すべきお店だと思われた。

 しかし、実情は、どうも、まだ違うような気がする。100席もの大箱フレンチのサービスと、オーナーの目が行き届く20席くらいのレストランとに同じサービスを期待するのは間違っていることは認識しているが、ブランド力と強気の価格設定とのバランスを考えれば、ある意味その評価は厳しくなりがちと思われ、高くなりすぎた期待が、実際の現場において、急速に萎んでいく様はやむを得なかったりもする。そして化学調味料が巷にあふれる日本において、ある程度のサプライズと味のしっかり感を出すためには、当初意図していなかったであろう材料も使わざるを得ないのは、お客様のニーズに応えているとも言えるが、それは妥協点が違うというべきか、フレンチの三ツ星への期待感とは乖離しているようにも思われた。普通のレストランなら、あーあで終わってもよさそうだが、日本を代表するフレンチの一角を占めるとすれば、ここはガツンと言わなければならないような気もしつつ、一歩間違えれば誹謗中傷になりそうで、微妙なスタンスをとりつつ筆を進めてみたかったりもする。

 たとえば、私はメインの鴨胸肉のソースに、某インスタントラーメンの粉上スープと同じ、ケミカルさを感じてしまった。(これは名店の誉れを築きながら、訳あって神奈川県某所にリニュアルオープンした焼肉店のたれと同じ類のものだった・・・。)。一瞬で開くうまみ成分と、余韻ではない、なんともいえない残存感に、その存在を意識したのだが、これはあくまで私が感じたことなので、実際にむにゃむにゃが使われているかどうかは定かではない。しかしワインリストに自然派ワインをラインナップし、自然のままの食材にこだわりを見せている以上は、このケミカリーさには、なにやらの矛盾を感じてしまうのだった。また肉自体はとてもしっかりとしていて、これがまたお洒落なナイフではなかなか切れず、見た目重視のデザインよりも機能性に重きを置いて欲しかったりもするが、これがシャラン産の鴨の特徴なんですよと言われれば、まあそういう説明もつくような気もした。しかし全体の印象からすれば、決して不味いということではなく、フランス屈指の食の美を体感することはできるのだった

 サービスは、個人的な意見としては、サービスマンたちの制服?をもう一回り大きいサイズに変更した方が、いいように思われた。特に女性従業員のパンツルックは、流行の最前線をいっているのかもしれないが、ポッチャリ型が多い日本人の体型には今ひとつあってないような気がして、このブランドから想像するエレガントからは少し距離を感じてしまった。そして某ブランドであろうお洒落な運動靴を履き、店内のあちこちでサービスする姿には、なんとなく運動会にいるような、そんな印象を持ったりするのだった。こ

 そして同席させていただいた某氏の発言が彼らのサービス具合を一言で表現していた。

 「皆さんお若いですが、大学生のアルバイトですか?」

 おおお。一瞬従業員の顔面が硬直しつつ、それはあまりにも直球すぎる質問で、的は得ていても、投げたのはボールではなく、槍だったような、とても鋭い質問になってしまった。「いいえ、正社員です」と応えた女性に同情しつつ、要所要所で見過ごされたサービスを思うとき、なんともお茶でいろいろな面を濁したい衝動に駆られるのであった。

 私は、夢を見ているのだろう。きっとそうに違いない・・・。エレベータでお会いした某支配人は、きっと彼のそっくりさんに違いない・・・。視線を店内ではなく、外の景色に移して気分を転換しよう。ここからの景色は、とても特殊で、見慣れない風景だった。いつもより小高い階から眺める銀座四丁目の交差点と、その延長線上から少しずれたところにある東京タワーが、花の都大東京の表の世界を体感させつつも、銀座のビルは階数がそれほど高くなく、それぞれの屋上に設置された各種のメンテ機材がばっちし見えてしまうところは、ご愛嬌で、ここはひとつ豪華な夜景と共に楽しみたい風景だった。

 そして話を無理やりまとめるならば、ここはこのブランドをこよなく愛する人が、そのブランドを身に纏ながら、豪華に食事を楽しむところで、一般ピーポーが背伸びをして、よっこらせっと見物するところではなさそうだ。自分の身の丈にあったハッピーレストランは、この国にたくさんあると思う。当レストランは、日本のフレンチの頂点を意識させるがゆえに、いろいろと重箱の隅をつつきなりたくなるのであって、それが頂点に立つものの孤独を感じさせたりもするから、食の世界の奥深さを体感するには、一度は訪れたいお店かもしれない。

 しかし、食後にこのレストランの向かいにあるデパートの地下にある和系の喫茶店で楽しんだお茶のシェークはとてもうまかったなあ・・・。


おしまい


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