きれいなハンガー (2005/06/14)

 
 先日、いつもの某店で五目焼きそばを食べながら、おやっという光景を目にした。

 その日は時間帯が中途半端だったこともあってか、カウンターだけの某店にはお客は私だけだった。五目焼きそば・・・正確に言えば、具はもっと多いので八目焼きそば?・・・を造り終えたご主人は、テレビ画面の山口百恵の昔の映像を食いいるように眺めては、「山口百恵好きだったよ。」と告白してくれたりした。画面を見入るその表情は、とてもうれしそうで、とても和やかだった。画面がCMになってしまうと、ご主人もやることがなくなって、どうも手持ち無沙汰のようで、厨房を出て、店内の椅子の配置などを直したりしていた。

 で、壁にかかるハンガーを食い入るように見つつ、何かを思いついたかのように全てのハンガー(7本くらい?)をつかんで、再び厨房へと入っていったのだ。そして、そのハンガーを洗い出した。スポンジに洗剤をしみこませ、泡立ちも良く、プラスチックの裏側の埃を取るかのように、きれいに洗っていく。

 凄いと思った。

 ここのおいしい御飯は、きれいなハンガーにその秘密があったのだ。「美しいものは、美しいものからしか生まれない」という某氏の言葉が心に浮かび、プロの仕事とはかくあるべしの典型的な光景を目にしては、おいしくなかったお店の汚らしさがいろいろと思い出され、そんなお店との味の差は歴然というべきか、土俵が違うというしか表現できないくらいの強烈な格差なのであった。

 おいしいお店の基準がここにある。

 そして世の中の大半のお店は、ここを基準にしてしまうなら、ランク外へと放り出さざるを得ず、みるみるうちにドンドン食べるものがなくなっていくのだった。おいしいものを知ってしまったがゆえの不幸。もしもふらりと入ったお店の壁に掛けられたハンガーに埃がべったりとかぶっていたら、携帯電話に電話がかかってきたふりをして、お店を出てしまいたくなる症候群が発症しつつ、それを行動に移せない小心者の性格をして、ああやっぱりおいしくないと呟く様が目に浮かぶのだった。

 さて、そのハンガーが洗いたての某店はどこにあるか。最近とても混んでいるので店名は言えないっす。


おしまい



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