横浜 伊勢崎町に雪が降る (2005/10/23) |
関内駅にほど近い、神奈川県を代表する歓楽街(だった?)、関内・伊勢崎町。古くは、ブルースにも歌われたヨコハマの街で、昨日、白い、綺麗な雪が降った。
お店の名は、○○亭。焼き鳥のコース料理が、関内界隈では、鳥がおいしく食べられる有名店とのことで、関内某所の鮨の某有名店の若きご主人もその名を知るほどだった。ネットでその情報をゲットしていた某氏に連れられて男四人で暖簾をくぐったまではよかった(のかなあ・・・)。店内にメニュはなく、「お任せのコースでよろしいですか」の問いかけに、某氏は素直に頷いて、とりあえず生ビールで乾杯しつつ、店内を見渡すと、ほぼ満員の繁盛振りだった。 「へえ、人気店なんだね。」そうは言いつつも、隣の先のタバコ客に、一抹の不安を抱えながらも、焼き鳥屋にタバコ客はやむを得ないのだと戒め、ビールに口をつけると、微妙な苦味加減。うーん。生ビールの当たりハズレを意識するようになって、どうやらその不幸はここにも迫っており、それでも、ここで指摘するほど野暮でもないかと思いつつ、そのまま飲み進めることにした。 で、まずは「お料理が出るまで、これを食べてくださいね」と差し出された漬物盛り合わせがテーブルにトンと置かれた。ん。漬物に、季節ハズレの雪が降っている。そう、化学調味料の代名詞、市販の某グルタミン酸ナトリウムが、見た目に上質なきゅうりの上で美しく輝き、それはかなりの積雪量のためか、いわゆる踊りの状態だったのだ。それはそれは、美しい雪の結晶を見た思いだった。 これってアルバイトのお兄ちゃんが、変に気を遣ってくれて・・・かも。「ちょっと交換してもらおうよ」と言うより早く、某氏の箸が漬物に接触し、おもむろにパクリと彼の口の中に放り込まれてしまった。あ。これで返品できないなあと思いつつ、某氏の苦虫系の顔が忘れられない。私は、「ごめん。これはちょっと無理」と踊る雪を見ながら、メンバーに詫びつつ、順繰りに出てくる焼き鳥のいちいちに、白い結晶を確認し、これはアルバイトのお兄ちゃんとの見当違いの配慮ではなく、お店の方針なんだと確信してしまった。 例えば、お店の看板メニュらしい肉厚のピーマン焼き。「中のお汁が熱いから注意して食べてね」と、店員さんに言われたそのピーマンにも白い雪が万遍なくあしらわれ、私は、その結晶を探しては、おしぼりでピーマンの表面を拭き拭きしつつ、お汁に口をつけると、こってりとした直球ど真ん中の味わいだった。このピーマン、とてもすばらしい素材なのに、すごく残念。そして肉汁したたる肉厚の焼き鳥にも、そいつはしっかりコーティングされていた・・・。 「すみません。○の○、振るのやめていただけませんか」 怪訝な顔の女性スタッフが「わかりました」と厨房に戻ってしばらくすると、オーナーらしき職人(?)さんが私のテーブルにやってきて、「これ振らないと、うちの味じゃなくなっちまうけど、それでもいいですかい」と不思議な真顔で問いかけてきた。「ええ。是非その線でお願いします」とは私の弁。しかし、すでに仕込みの段階で大量に使われているらしく、その後出てきた料理を、恐る恐る食べつつも、もうこれ以上は限界で、スープにいたっては、香をかいだ瞬間に、インスタントラーメンの塩味と同じニュアンスを察知して、口をつけることすら出来なかった。うーん。辛いよお。さすがの某氏も、いてもたってもいられなくなり、コースの途中で停止をお願いし、とりあえず口の中の強烈な残存感に戸惑いながら、そう安くない料金を支払いつつ、お店を出たのだった。 私はその結晶がかなり苦手であるが、完璧に否定するものではなく、味の調整にごく微量使われること自体は完璧には否定はせず、しかしそれを大量に使われると、味覚的にも体調的にも、そして食文化的にも厳しいのでは、と思っているのに過ぎないのだが、この店の使用量は、明らかに人間の一日の最大摂取許容量を越えているのだった。気持ちが悪くなってきたぞお・・・。 このお店の食材は、野菜といい、鳥といい、牛といい、相当なこだわりを感じることができ、ただそのまま焼いただけで、無常のおいしさに到達できると思われた。それなのに、オーナーらしき職人(?)さんの確信が私を戸惑わせたのだった。ここは、最高の食材に化学調理料を大量に使用するお店だったのだ。(そしてそれを当たり前と思っているのだった。) 港ヨコハマの夜の街・伊勢崎町の有名店は、化学にまぶされていた。それは残念を通り越して、私に怒りさえ覚えさせた。誰に対して・・・・。もちろん、上等な野菜を育てた農家さん、上質な鳥や牛を育てた人たち、そしてそんな一流の食材を丁寧に運んだトラックドライバーさんたちの【無念】に対して、だ。彼らの苦労と信念がケミカルによって埋め尽くされてしまっていることへの苛立ちと、それを「うまいうまい」と食べている圧倒的多数の人間の味覚のずれに、私は言葉を発する気力もなくなっていた。 家に帰って、このお店の情報をネットで検索すると、多くの人が絶賛していた。私はそんなカキコミの一つ一つを信用することができず、なんとも不可解な倦怠感だけが、私を襲うのだった。 伊勢崎町は、雪の降る街だったんですね・・・。 おしまい Copyright (C) 2005 Yuji Nishikata All Rights Reserved.
|