「バベットの晩餐会」 (2006/01/03)

 
 「バベットの晩餐会」 監督・脚本 = ガブリエル・アクセル 1987年デンマーク映画

 昨年の大晦日に、都内某所の某中国料理店の某氏にお借りした映画を、このお正月に何度も観てしまった。この映画は、カラー作品ながらとても地味な配色の映画で、特にどうとしたハプニングも起こらずに、淡々と物語は進み、そして終わっていく映画である。時は1800年代後半、フランスを追われた某女史が、ようやくたどり着いた辺境の村で、10数年後に、ある牧師の生誕100年を祝う晩餐会を開くことになり、フランス料理のフの字も知らない年老いた村人たちに、正式なフランス料理でもって、おもてなしをすると言うストーリーは、私を痛く感動させ、このテープを貸してくれた某氏をして、最も好きな映画と言わしめる名作であった。

 この映画は、食に携る人は、全員観なければならないと思う。なぜか。料理とワインが持つ不思議な力を体感できるからだ。極上のお料理は、人を幸せにする。銘醸のワインは、人の頬をうれしそうに赤らめてくれる。海亀のスープ、キャビア、ウズラのパイ包み・・・。その村に住む人にとっては得体の知れない、いわば魔女の食卓に思えた料理は、それを食べ進めるうちに、人々の心を癒していき、そしてこの映画を観ているだけの私までもが、ほっと幸せになっていく。食べて側で唯一、この料理の素性のすばらしさを知る将軍には、知るが故の格別の思いをめぐらせ、彼の半生の正しさを認識させてくれたりもしたようだ。

 一度きりの豪華な晩餐会。

 アモンティヤード(シェリー酒)を海亀のスープと共に味わい、ヴーヴ・クリコの1860年のシャンパーニュにキャビアを合わせ、1845年のクロ・ド・ヴージョには、うずらのパイ包み・・・。色とりどりの果物のあとには、食後にコーヒーと共にコニャック(フィーヌ・シャンパーニュ)が供される。

 食べるということはどういうことなのか。

 飲むということはどういうことなのか。

 ただ空腹を満たすだけの食事ではない、ただ酔うだけのお酒でもない、食と文化がくっついて、食文化と形容されるような、そんな空間がどう考えても美食とは縁のない辺境の村に存在し、その料理とそのワインの素性を全く知らない人たちの心を癒していく。

 食は文化なり。

 ワインセミナーを通して、そんな思いが私にも伝えられたら、と思いながら、今一度巻き戻して最初から観てみようと思ったりするので、このテープを某氏にお返しするのは、もう少し遅れてしまいそうだ・・・(笑)。


 おしまい


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