ある社長の男気 (2006/02/17)

 
 先日、若き実業家の方とお話しする機会があり、(というか一緒に飲む機会があり・・・)とても感銘を受けてしまった。インターナショナルに事業展開されるその実業家某氏の下では、ある国の人(以下A氏)が正社員として働いているという。A氏は、母国の大学院を修めたいわゆるエリートで、以前日本で働いていたことがあり、日本語も巧みに話すらしく、また複数の他の言語にも精通しているという。実業家某氏は、A氏の仕事ぶりには信頼を置き、また休日には本場のカレーの作り方を教わったり、公私共に楽しそうな人間関係が育まれているようで、話を聞くごとに、とてもうらやましいと思ったりした。

 で、その実業家某氏はA氏の過去にあるひとつの嘆きを持っていた。それは、A氏本人というよりも、わが国の外国人労働者の法整備についてだった。外国人が、この国で働こうとする時、労働ビザの取得は煩雑で困難を極めるため、大抵の外国人は観光ビザで入国し、その三ヶ月の滞在期間中に不法労働という形で従事し、祖国との往復を繰り返す。そしてご多分に漏れず、A氏も観光ビザで入国し、複数のブローカーを通じて、日本で労働していたという。

 その国の最高学府を修めた者が、日本で不法労働者として働くことに、某氏は強烈な嘆きを持ち、日本の、または日本人のプライドにかけて、正式にA氏を招き、この国で働いてもらわなければ、いかんのだとコブシを挙げんばかりの勢いで私に語ってくれた。外国人が労働者としてこの国で働こうとする時、とても煩雑な手続きがあるという。某氏は、具体例を挙げて私に説明してくれ、その苦労には頭が下がる思いであり、その面倒くさい手続きを某氏のプライドにかけて、すべてを完了させて、晴れてA氏は日本での労働者になったとのことだった。

 話は外国人労働者の年金受給問題などに及びつつ、手を抜けば、いろいろと抜け道がある闇の世界の外国人労働者の雇用について、某氏はプライドにかけて正規の手続きを踏んでいた。そのご苦労は、尊敬に値し、そしてなによりもその遵法精神こそが、その実業家某氏をして今日の成功をたらしめているのかと思うと、思わず某氏の話に身を乗り出したくなってくる。

 その実業家某氏に、男気を感じ、なんだかその夜のワインは、とてもおいしかった・・・というより飲みすぎたかも(笑)

 おしまい


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