すし職人からのメッセージ (2006/03/23)

 
 先日、いろいろあってお寿司屋さんでの宴会に参加した。カウンター席すべてを貸しきっての宴会で、会自体は大いに盛り上がり、それはそれは楽しいひと時を過ごさせていただいた。酒量もかなりのレベルに到達し、翌朝は頭もがんがん痛かったほどだった(笑)。しかし、肝心のお寿司というと、個人的に、宴会にかまけて寿司への集中力を欠いてしまい、職人さんに大変失礼な振る舞いをしてしまったかと思いつつ、今思えば背筋に冷や汗もかくというものだった。

 宴会での楽しい模様は大幅に割愛しつつ、私は最後に出された鉄火巻きに大注目したいと思う。というよりも、私はその鉄火巻きを忘れることができないかも知れないと思ったりする。なぜなら、その鉄火巻きには大量のワサビが隠されていて、それは酔いが一気に覚めるほどだったからだ。

 その鉄火巻のワサビの余りの多さに、思わず職人さんに尋ねてみると、「そうですか・・・。」と愛想のない答えが返ってきた。そこで、私は職人のメッセージを察知したのだった。

 「もう来なくていいよ」

 私が寿司職人の立場なら、「宴会なら、よそでやってよ」と思うだろう。私が職人さんなら、そんなメッセージをワサビに託したいと思うだろう。カウンター席は、職人さんとの対話の絶好の場。その大切な場に敬意を払えなかったことに対し、とてもふがいない思いもしつつ、しかし一方ではその宴会自体はとても楽しかったので、そのバランスのとり方の難しさに頭を抱え、それを次回の食空間の楽しみにつなげていければと思う。

 日々反省、日々精進。

 食の楽しみは、想像以上に奥深く、食を文化のレベルで語りたいと思うものにとって、一生をかけてこだわりたい領域と確信する。それはきっと、鉄火巻のワサビの量に比例すると思いながら、あの夜の楽しかった思い出と、同時にかいた冷や汗を思い出すのだった。

 食は難しくも、楽しいですね。

 おしまい


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