レストランの悲哀 その1 (2006/04/05)

 
 先日、都内のフレンチ・レストラン経営者と話した折、キャンセルの対応について話が盛り上がり、その悲哀を共有してしまったりした。なんでも、とある予約されたお客様が、当日のその時間になっても現れず、30分程度待ったところで、事故にでも遭われたのかと心配になり、あらかじめ聞いておいた自宅の電話番号に電話をすると、当の本人がちゃんと出て、電話口からテレビを見ていることもわかったという。

 「本日ご予約いただきましたレストランのものですが」
 「あ。今日、面倒くさいから行くのやめたよ」
 「しかし・・・」
 「行かないんだから、そのままキャンセルでしょ。いちいち電話してこないでよ」
 「・・・」

 その後のやり取りは、もちろんなかったようで、電話が切れた音がむなしくレストランに響いたのかと思うと、やるせない気持ちになる。レストランの予約取り消しは、その日の約束の時間にいかなければと自動的にされると思っている輩が意外と多いらしく、勝手にそんなシステムを構築されても困るというものだ。それは、食材にこだわるレストランにとっては致命的なこと。日本語が通じない日本人に幻滅しつつ、レストランの予約のマナーを知らない人が、実はそんなに少なくないということが、某氏の口からこぼれてきた。

 レストランは、決まった席数の中で席を確保し、食材を仕入れ、時間に間に合うように下準備をしていて、繁盛店なら、その予約のために断わざるを得なかったお客様も多数いることだろう。それが団体さんならなおのことだ。レストランは、そんなお客様を装った人のために、食材を無駄にするリスクと、その日のために雇ったアルバイトへの支払いと、収入が入ってこないリスクを抱えて予約を受けているのかと思うと、同情せざるを得なくなってしまう。

 話は変わるが、俗に、予約が取れないレストランがある。その多くは、毎月特定の日の時間制限で、たとえば第一月曜の朝10時から正午までというような、予約システムを採用しているレストランであり、それ以外の時間帯に予約しても受けつけてもらえず、ゆえに予約も取りづらくなっているのだが、そのシステムの裏にはこんな事情もあったりする。闇雲なキャンセルを避けるためである。予約に制限を設け、それでもそのルールに従って予約を入れてくださる方は、レストランのマナーを熟知されている方であり、それはまた、そのレストランでの食事を真に希望していることをレストラン側に伝えることができるからだ。そしてそんなお客様がその次の予約を取ろうものなら、上記に出てくるような輩ではないことが判明し、レストランとしてもある意味、安心してその予約を受けることもできるという。また夜の予約はリスクが大きいが、比較的ランチならキャンセルの痛手も小さいので、昼間の予約を進められることがあり、そこで実際に食事を楽しみ、気に入ったらその場で夜の予約を頼めば、予約の受付時間以外でも受けてくれることは多いだろう。それでも断られたら、たぶん自分はそのレストランにとって招かざるお客様の一人になっているかも知れず、その場の空気をよく読むことが必要なのかもしれない。

 「一見さんお断り」

 実際にはそんな看板を掲げるレストランはほとんどないが、初めてのお客様が、冒頭の人物であるか、それてもマナーを熟知している人なのか、一見では判断できない以上、このシステムは、レストランの経営を安定させるためにも、ある意味必要だと思うのだった。レストランのキャンセルは、永遠のテーマですね。辛いなあ。


 おしまい


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