レストランの悲哀 その2 (2006/04/05)

 
 先日、都内のフレンチ・レストラン経営者のマダムと話した折、ブショネ(コルクのカビ臭)の対応について話が盛り上がり、その悲哀を共有してしまったりした。なんでもそのマダムがプライベートで、どこそこのレストランで食事をしたときに、オーダーしたワインにブショネの傾向があったので、確認のためにソムリエに相談したのだという。そして、そのワインを改めてテイスティングをして、そのソムリエが発した言葉は、マダムの想定を超えていた。

 「ああ。これはコルクのカビ臭が、ワインに溶け込んでいるものです。」
 「ええ、ですから・・・」
 「健康には問題ありませんよ。ごゆっくりお楽しみください」
 「は ?」

 そしてソムリエは、ほかのテーブルの接客をするために、マダムの席から、何事もなかったかのように、離れていったという。通常、ブショネ(TCA汚染によるカビ臭のついてしまったワイン)は、ワインの欠陥に該当し、交換の要求が可能とされている。このブショネの問題は、レストランにとっても、酒屋さんにとっても、消費者にとっても、ワイン生産者にとっても、コルク生産者にとっても頭痛の種で、ワインにコルクを用いる以上、不可避の問題であり、永遠のテーマである。しかしそれゆえにレストランは小売価格の数倍の価格で、ワインを提供し、そのリスクを回避している(お店が多い)のだ。またブショネは、人によって感知能力に差もあり、私の経験上、ブショネを判断できないソムリエは、意外に多いのも現状だったりする。(私のブショネの見解は相当シビアだと、誰かに言われたこともありますが・・・)

 しかし、当該ソムリエは、ブショネの感知能力は備わいつつも、その対応は、どこのソムリエスクールで勉強したんだと訝しがりたくなるものなのだ。ブショネを認知し、ブショネを欠陥とみなさず、それを平気で飲み物として提供するソムリエが、この国に存在することに、強烈な違和感を持ってしまうのは私だけだろうか。

 私はマダムに問いかけた。
 「で、そのワイン、どうしたんですか」
 「飲めなかったわよ、もう」

 語尾の投げやりな「もう」に共感しつつも、会計の時に、ソムリエに「このワインお苦手ですか」と、言われやしなかったかと心配になったが、その後のマダムが、どんな行動にでたのかは、話の途中で邪魔が入り、聞きそびれてしまったので、なぞは深まるばかりとなった・。しかし、想像はできる。「もう」マダムはその店には決して行かないであろうということを・・・。

 ワインは難しいなあ。

 おしまい


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