おつり (2006/04/09) |
先日、馴染みのお店で、お気に入りのベルギービールなどを買った時のこと。合計金額は、800円ちょっとだったので、私はやおら財布から1000円札を取り出して、レジの女性に手渡した。「いつもどうも。まずは大きいほうから9000円ね」毎度ながら、彼女の微笑みは、いい感じ。一日の疲れも吹っ飛ぶというものだった。
「え。きゅうせんえん・・・」 この瞬間、私はいくつかの選択カードを頭の中で並べ、どう対応すべきか考えてしまった。 1. ラッキー。 2. このまま9000円ちょっとのお釣りをもらって、一目散にダッシュするか。 3. 正直にお釣りが違うことを正しく申告しなければ。 4. ダッシュすると、この店には再訪が厳しくなるぞ。 5. 正直に言うべきだ。 6. しかし9000円は少なくない金額かも・・・。 7. わずか9000円なんて、小さい小さい・・・。いつからそんなに小さい人間になったんだ。 8. いやいや、そもそも、これは犯罪だ(注)。逮捕されるぞ。 9. でも9000円かあ(笑) 10. 何を迷う。返すに決まってんじゃん。 と、時間にしておそらく0.9秒くらいの間に、いろんな思惑が錯綜し、私は一気に動揺してしまったのだった。ドギマギしつつ、しかしレジの女性は、私の動揺には気づかなかったようで、小銭を取り分ける作業をしていた。普通、レジにはお客から預かった紙幣の置き場があるものだが、そのレジのお札一時預かり場には、お札は見当たらなかった。彼女は、私のお札をレジの中に入れてしまったのだろうか。その瞬間を見逃しているものにとって、どう対応していいのやら、ちょっと慌てたりする。そして再び私は考えた。やはり、ここは正直に申告して、これからも長い付き合いを維持すべきだ、と。犯罪云々もそうだが、信頼関係は私にとって一番大切な事項なのだから・・・。それに第一、逆のパターンで、1万円札を出して、おつりが小銭だけだったら、間違いなく瞬間的にそれを指摘するのは火を見るよりも明らかなのだ。 「あのう。おつり違いま・・・」 私の言葉をさえぎるように、彼女はお釣りを手渡してくれた。 「そうじゃなくて・・・・」と、その時、私の目に、レジ台から少し離れた場所に置かれているお札が飛び込んできた。それは、福沢さんの笑顔が凛々しい、10000円札だった。紛れもない一万円札ではないか。「いちまんえんさつ・・・だ」「へっ」と思いつつ、財布を確認すると、本来あるはずの希少な1万円札がなくなっていることに気づいてしまった。 「え。どうしました」 彼女は、私の一連の動揺に気づかずも、いまさらになって違う原因によって、ドギマギする私を見て、ほっと微笑んでくれた。1万円出して、おつりが9000いくらなんて、普通じゃん。あー。びっくりした。 「いえ、なんでもありません・・・・(苦笑)」 しかし、ものの0.9秒とはいえ、信頼関係を破壊しかねない心境に達したことは、実に恥ずべき事柄で、その戒めとして、コラムに載せてみようと思いつつ、なんだかこんなにも小さい事柄に一喜一憂する自分に、あきれたり、笑ったり、恥ずかしかったりするのであった。(走れメロスのメロスと同じ心境かな・・・)。でもびっくりしたっす(笑)。しかし、それよりもまずは、1000円札と1万円札を間違える自分の行動を恥じたい気分だったりする。ボケかましてしまいました・・・あーあ。 ちなみに1000円払って9000円のお釣りをもらった場合、詐欺又は占有離脱物横領の罪になりますので、よい子も悪い子も、そこんとこよろしくちゃんです。 (注) 詐欺罪 = 相手方が錯誤によってつり銭を余計に出したことを知りながら、その旨告げないで受け取る行為。 刑法264条 十年以下の懲役 占有離脱物横領罪 = 相手方が錯誤によって余計につり銭を出したことを知らずに受け取った者が、 その後、つり銭が多すぎることに気づきながら返却しない行為。 刑法254条 一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料 なお、当コラムにつき、某氏と某氏より罪状についてのアドバイスをいただきました。ありがとうございます。
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