「陰日向に咲く」 (2006/04/19)

 
 「陰日向に咲く」 劇団ひとり 幻冬社

 昨年放送されたフジテレビの「電車男」でのイメージが強く残り、今放送中のNHK朝の連続ドラマにも出演しているお笑いピン芸人 劇団ひとりが書き下ろした連作小説。この本を手にしたのは、大学時代から何かとお世話させていただいている?某氏からの携帯メールが発端で、とりあえずは氏との会話を合わせるために、本屋で軽く立ち読みして、適当な感想をメールすればいいかなと思いつつ、どうせお笑い芸人が片手間に書いた企画もの系な本でしょ、くらいな超うがった視線を寄せつつ、平積みにされた本を手にしてみた。

 ん。出版社が幻冬社だ。受け狙いの、テレビの企画系を想像していた者にとって、この出版社から出ていることに、一瞬背筋も伸びたりする。そしてぺらぺらと適当に開いたページを数ページ読んでみた。

 面白いかもしれない。

 たまたま読んだ箇所が、好きな人に弄ばれた女性の件で、その弄ばれ具合に思わず、その現場(駅のホーム)の風景がリアルに想像されてしまったりした。この本は簡易な文章で書かれているので、少し粘れば本屋で読了も可能な感じも持ったが、この本は立ち読みではなく、1400円+税ほどする価格を支払う価値があることを直感し、劇団ひとりの本を買うことに少しばかりの恥ずかしさを持ちつつ、レジへと並んだのだった。

 その後、某ハッピーレストランでコーヒーを注文して、読了。かつて工藤夕貴がハリウッド映画「ミステリートレイン」で好演技を見せ付けたシーンに、この小説は重なってくる。偶然出会うことになる登場人物の、それぞれの場面が展開されては、最後にバチッと物語が完結するところに、「すごさ」を感じざるを得ない。読み進めるうちに、時に泣いたり、時に笑ったり、時に泣きながら笑ったり、と、この小説は、なんだかとても不思議なワールドが展開され、それはどうしようもないほどの哀しさをもっていた。

 劇団ひとりのイメージを覆すほどのこの小説は、レジにもっていく時の気恥ずかしさ? (えっ劇団ひとりの本ですか・・・)を制してまで買うべき小説だと思ったりする。なんだか泣けてきます。そして、無性に浅草に行ってみようかと思ったりしたくなる。お笑い芸人が書いた本という先入観は捨てて、あるいは捨てずにとっておいて、この本を読み進めれば、この本をあと少しで読了してしまう寂しさのようなものを感じつつ、少しの毒気に、ほっとさせられるかもしれない。

 いい本ですね。ぜひ。


おしまい
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