回転寿司で、サプライズ ロマネ・コンティ編 (2006/11/14)

 
 「回転寿司でロマネ・コンティ飲んで、うまいのか」

 先日、見知らぬ某氏より投げかけられたその質問は、素朴で、かつ的を射ていると思います。確かに、一般的な考えとしては、その通り。しかし、もしここで、「でもそれってなにやら面白そう」とか「何で回転寿司で、なんだろう」という疑問が沸き、好奇心が生まれるとしたら、新たなる「食」が始まるかもしれないと思います。

 そして実際、私は小田原の回転寿司で開催したワインセミナーで、ロマネ・コンティ1983を開栓しました。回転寿司で、ロマネ・コンティを飲むという違和感と幸せ感。それは、かつてイタリアのカテリーヌ・ド・メディチがアンリ二世に嫁いだ時、嫁入り道具としてフォークを持っていったことから、今日のフランス料理のスタイルが確立したことを思えば、それほどの違和感はないと思われます。しかしフォークがフランスの宮廷に普及するのには、半世紀ほどの歳月も必要だったようで、衝撃はすぐには受け入れられないものなのだと思ったりもします。

 ところで、小田原の回転寿司でロマネコンティを開栓するにあたって、その特徴を列記してみます。

01. ワインは慎重に運ばれ、10日程前からワインセラーに、立てて保存。
02. 開栓1時間前から室温(シャンブレ)された温度管理を確保。
03. 10月下旬のさわやかな気候と温暖な天気。
04. 禁煙で、清潔な店内。
05. 6人がけのテーブル席に余裕の3-4人の着席。
06. ロブマイヤー社バレリーナシリーズ グラスVでのサービス。
07. 直前に澱を分離するためのデカンタージュ。
08. 食事は、フランス産チーズ盛り合わせと、その詳細な解説。
09. ロマネ・コンティ1983に関する資料の配布。
10. 10等分されたワイン。そして別に配られた澱。
11. 店内は、ほぼ貸しきり状態で万全の集中力。
12. ロマネ・コンティの価値を共有する参加者全員。
13. 回転寿司店長のオーラ。

 ロマネ・コンティの古酒を開栓するのに、ここまでの状況を作り上げることは、何気に困難で、気持ち酢飯の香りが、残存していることを除けば、ほぼ理想的な環境を作り上げることに成功しました。しかも肝心のワインは、ピノ・ノワールの理想に重なり、それはまさに最高の味わいで、慎重に均等注ぎしたときの上空の香りは、天にも昇らんかの勢い。お昼も夜も常に満員になる人気店にて、15h20分という不思議な時間帯ゆえに、店内は我らをのぞいて閑散とし、この瞬間、この場所だけが、ロマネ・コンティ1983を味わうためだけに存在しているかのような錯覚に陥ったのです。ロマネ・コンティを存分に楽しむ空間を演出できたと同時に、ふと、ここが回転寿司であることに気づくと、なにやら可笑しくなってきます。回転寿司であるという客観的な事実を除けば、ほぼ完璧な環境の中での、ロマネ・コンティの会は、無事に成功を収めることができたのでした。

 ただし、世界中に散らばる回転寿司のなかで、小田原のここだけが特別で、よその回転寿司で、ロマネ・コンティを飲もうとはまったく思いません。店長の哲学と軽快なトーク、専門の道具類・・・。ここだからこそ、ロマネ・コンティも大丈夫なのです。したがって、冒頭の見知らぬ某氏の発言は、ここの回転寿司を除けば、正解そのものと思われ、彼の疑問も素直に納得しますが、もうワンステップ踏み込む勇気があるとしたら、今回のような不思議なワールドを体感できたのかもしれません。食へのこだわり・・・。面白いテーマです。

 で、その後の店内の模様は、こんな感じでした。私が配信したメルマガの文章を引用しつつ・・・。

 「しかし、最高のひと時は、いつものように、つかのまで、中締めの後に、あらよという間に満席になった店内を見渡せば、さっきまでの異空間が嘘のよう。人であふれかえる店内には、いつもの騒々しさが戻ります。先ほどまでの状況を知らないファミリーがおいしそうに寿司を食べては、店員さんたちがこまめに対応していました。それは運動会や文化祭の翌日の授業風景に似て、さっきまでの非日常的な楽しさと、再び始まった日常に少しだけ戸惑う自分を発見し、それはなんだかとても寂しい感覚に陥るのでした。カラスがカアと鳴けば、泣いてしまいそうなそんな感傷に陥るのは、ピノ・ノワールの芳香のせいでもあります。」


おしまい

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