あ。松岡君だ (2007/01/18)

 
 昨年末、銀座の有名百貨店で、買い物などをしていたときのこと。

 クリスマス商戦で、非常に賑やかな店内は、まさにクリスマスそのもので、この手の雰囲気にいまひとつ馴染めない私としては、少しばかり居場所を探して、店内をうろちょろしていた。すると、ちょうどレジのところに、見覚えのある男性を発見した。中学のころ、彫りの深い、格好いい系の友達がいて、彼の名は松岡君といった。その彼にそっくりな男性・・・というか、それ相応の歳月を経て、その面影を残す男性社員を発見したのだ。とっさに松岡君だとつぶやきつつも、遠い中学時代の記憶を紐解きつつ、恐る恐る?品物でも見るふりをしては、近づいて、彼の胸にセットされた名札を見つめてみた。彼の名札には、「松岡」とあった。

 顔がそっくりで、名前も同じな場合、おそらくその人は、私の同級生の松岡君に、九分九厘間違いないのだろうと思われた。で、少し想像してみた。

 「あれ、もしかして松岡君ですか」
 「はいそうですか」
 「イソチューの松岡君ですか」
 「は、はい。あっもしかしてブルゴーニュ魂ですか」(当時からそんなあだ名はつけられてませんが、便宜上・・・)
 「おおお。久しぶりだね」
 「何年ぶりだろ、中学卒業以来だから・・・」
 「いまここで働いてるんだ」(見たまんまの感想だ・・・)
 「まあね。ブルゴーニュ魂は今なにやてんの」
 「まあ、(中略)・・・」
 「まだあそこに住んでんの」
 「いや、都内に引っ越したよ」
 「しかし、混んでるね」
 「クリスマスだからね」

 という会話が、短時間に繰り広げられるんだろう。で、その先は何を話したらよいだろうか。店内はクリスマスで大賑わい。そんな昔話に花を咲かせるほどの時間もなければ、そんな話をしたところで、何があるわけでもなさそうだ。うーん。「じゃ今度飲もうね」などという会話を、みしらぬご婦人にさえぎられては、私と彼は離れ離れになっていくのだろう。なんとも間の悪い別れ方だなあ・・・。

 と、そんなことを思っているうちに、なんとなく、「あれ、松岡君ですか」の一言が言えなくなり、予想されるバツの悪さに戸惑いながら、私は彼に存在に気がつかなかったかのように、視線をそらしてしまったのだった。そしてそのうち彼はレジを離れて、どこかへいってしまった・・・。

 あの銀座のお店に行けば、彼はいるのだろう。

 クリスマスには言えなかった再会の台詞を、今度いいに行こうかと思う一月の夕暮れだったりする。

 「イソチューの松岡君ですか」

 (そのあと、何を話せばいいのか、いまだにわからずじまいだが・・・)

おしまい

目次へ    HOME

Copyright (C) 2007 Yuji Nishikata All Rights Reserved.