「マリー・アントワネット」 (2007/01/28)

 
 ソフィア・コッポラ監督作品「マリー・アントワネット」を近所の映画館のレイト・ショーで観てきた。

 この映画の個人的な楽しみは、現代的な解釈による世界で最も有名な王妃マリー・アントワネットの心情よりも、マリー・アントワネットに供される食卓についてだった。私は、贅の限りを尽くしたフランス革命直前当時の宮廷料理の食事風景やメニュについて強い関心があり、その文献をいろいろあたりながらも、それが実際どんなものだったのかを、リアルな映像で観ることに強い関心があったのだ。

 実際、モノクロの文献を読むだけでは、わかりにくかった料理も、この映画を観れば、リアルにその美しさと、廃墟さを感じることができた。(それもソフィア・コッポラの解釈かもしれないが・・・)贅沢三昧の絢爛豪華なお料理を、つまらなそうに食べる人たち。ひとかけしか食べられることがない派手にデコレートされたデザート。シャンパンの瓶が何本も空になる風景に、贅沢の中に潜む、なんともいえない虚しさを感じることができ、個人的には満足する内容だった。

 当時のフランス料理を知るには、絶好の映画だと思う。

 ただマリー・アントワネットが英語をしゃべる風景は、やはり違和感があった。オーストリアとフランスの王室同士の結婚が何で英語なんだろうと、思いつつ、これがハリウッドの致し方なさと、ハリウッドゆえに世界中に配信されるパワーも感じたりする。第一、制作費のかけ方が半端ないのだ。

 ところで、不思議なこともあった。あるシーンでは、アントワネットの子供が、なぜかぽそりとフランス語を話し、これは一時停止できなかったので気の迷いかもしれないが、靴がいろいろ並べられるシーンでは、最後にバスケットシューズが置かれていたのではなかろうかと思ったりしつつも、そのへんに監督の遊び心があるのかと察しつつ、当時の食卓をリアルに見るという点では、この映画は満足の行くものだった。

 ハリウッド的なストーリー展開や採用された音楽については、今回は特に興味がなかったので、ほかの観客とは視点が違ったかと思うが、私が知るマリー・アントワネットにまつわる史実はきっちり抑えられていたので、これがソフィア・コッポラ流の歴史観なのかと思うと、なるほどと思いこそすれ、決して悪い印象は持たなかった。

 いずれにしても、フランス料理に関心を寄せる人には、とても興味深い映画だと思う。フランス革命は、ワインにたいしても、料理にたいしても多大な影響を与えているのだから。そしてこの歴史は、今日のフランスレストランで共有されるものでなければならないと思うのだった。食の歴史を知ると、そこにリスペクトが生まれるはずだと信じるものにとって、この映画は必見かもしれない。

 http://www.ma-movie.jp/
 
おしまい

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