ロンフウホンという価値観 (2007/05/18)

 
 今日、知り合いのマダムより緊急の連絡があった。

 なんでも明日の晩、ロンフウホンでの食事会を予定されていたそうなのだが、参加予定者全員からキャンセルの申し出があり、どうしようという相談だった。マダムは、ロンフウホンを大変気に入られていて、あの感動を知り合いの若い衆にも体感させたかったようだが、ロンフウホンとはなんぞや、という若い衆たちには、その価値観は共有できなかったようで、安易な断りの連絡があり、その一報は、その価値観を知るマダムに痛恨に一撃を食らわせたのだった。一度ドタキャンをすれば、次の予約はもうできない・・・。至極当たり前の常識が、マダムをピンチに追い込んで、ロンフウホンを紹介させていただいた私に連絡をくれたのだった。

 ロンフウホンといえば、予約の取れない中華として知られ、運よく取れたその席はプラチナシートとして認知されているが、この店を訪れたことがない人にとっては、恵比寿の単なる電気屋さんの二階の中華屋さん程度の認識しかされないかも知れず、そのあたりが今回の緊急事態発生の原因のように思われたりする。

 そもそもロンフウホンの食事は、食べ盛りの若造さんたちには、ちっともおいしくないと思われる。なぜなら、いわゆる普通の中華から想像される、ニラレバ炒めや、チャーシュー麺、中華饅頭、フカヒレや麻婆豆腐の類は一切なく、うまみ調味料の類も、もちろん一切使われていないからだ。見た目は地味系が多く、油断すると真っ黒だったり、灰色だったりする(笑)。味は濃くなく、かなりの薄味うまくち系だ。おまけにピリ辛はとても少なく、いわば普通の中華の味を想像していると、拍子抜けしそう・・・。味わい自体は、和の道に通じる滋味系がほとんどで、これこそがロンフウホンの真骨頂なのだ。ここは、柳沼シェフの渾身の一皿を、森田さんのサービスによってゆったりと楽しむお店にして、腹をすかせた食べ盛りの兄ちゃんたちには、ちょっとかわいそうな食堂かもしれない。ロンフウホンは中華にして、中華にあらず。柳沼-森田亭なのだ。

 ところで、先日(というか一昨昨日)、訪問したときは、10皿コースを頼み、たっぷりと4時間かかった。(最後のお茶はクイック系で、終電ぎりぎりだった・・・危なかったっす)。そう、ここは、20分に一皿しか出てこず、その量も、自分の掌より小さいお皿に、ほいっと盛られた程度で、ものの30秒もあれば食べ終わってしまうくらいの量しかない。30秒で食べて20分待つ夕飯。これを10回繰り返すうちに、若い腹ペコの胃は、決して満たされることなく、それはある意味拷問に近い環境かもしれない。そんな空腹モードを森田さんは瞬時に察すれど、柳沼シェフのお料理は、すぐには完成しない。。。そこにはお互いの不幸が存在するしか手立てがないようだ。

 ロンフウホンは、森田さんお勧めのシャンパンやピノ・ノワールを飲みつつ、一緒に食事をする人たちとの会話を楽しみ、時々、話しかけてくれる森田さんとのトークに微笑みながら、20分に一度サービスされる渾身のお料理を楽しむ空間。そう、それがロンフウホンの世界なのだ。

 この世界観を共有できた人は、必ず再訪を誓う。しかし、それを共有できなかったり、事前の情報を持たない人には、安易な断りの連絡を入れたり、なんでここがそんなにすごいレストランなの?と首をかしげているに違いないと思う。

 価値観の共有なくして、幸せな食卓はありえない。今回のドタキャン劇からそんなことを思ったりする。



 ところで、気になるそのプラチナチケット4席分の行方は、どうなったかというと・・・。

 代打、俺。予てよりキャンセル待ちをしていた某氏たちに誘いの電話をいれ、瞬時に席は満たされた。

 明日は何が出くるのかな。うーん。いい感じだ(笑)


おしまい

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