カウンターなのに・・・ (2007/06/12)

 
 先日、都内某所のカウンター6席の和食店で、食事をした。

 そこはカウンターの中に作務衣を着た職人さんが二人いた。揚げ物や焼き物の関係からか、二箇所がガラスで覆われていて、カウンターながら、見えない壁が存在する不思議なお店だった。

 食材は、いい物を使っていて、火加減も味加減も絶妙で、おいしい。割かし高めの価格設定にも、なるほどと思わせてくれるお料理だった。しかし、ここのホスピタリティは個人的には、微妙かもしれないと思った。カウンターなので、こちらの食べるペースはわかってくれているかと思いきや、しかも私の食べるスピードは、世間一般的な速度と照らし合わせても、かなり速いものと自負しながらも、おまかせで頼んだお料理は、次から次と出来上がり、まだ焼き物を食べているのに、カウンターには私用の刺身がきっちりと盛られてしまったのだ。

 コース料理の仕様になっているのに、私は職人さんの目の前で食べているのに、どんどこどんどこお料理が出てきては、私のカウンターは見事な渋滞を引き起こしてしまった。そこはまさに場末の居酒屋ワールド。まだ一度も箸をつけていないお刺身が、よりによって私の目の前で温くなっていく・・・。それを見ながら、焼き物を頬張る・・・。急いで食べないと・・・。要らぬプレッシャーが私を襲っても、そうはクイクイ食べられないのだ。カウンターなのに、なんで、そんなすごいペースで出してくるのだう。職人さんも仕事が終われば、誰かと約束があって、早く帰りたいのかな。温くなっていく刺身を見ながらの食事は、それがどんなにおいしかろうとも、私を少し寂しくさせる。うーん。もったいないなあ。しかし、某氏の紹介ということで入店した手前、いろいろありつつ、文句のひとつも言えない小心者の私だったりする。この職人さんとは、空気を共有できていないぞ。

 ところで、ここは、ビールやワインをリーデルのOシリーズに入れてくれる。脚のないワイングラスのあれだ。私はどうもあのグラスは気に召さない。ボウルの部分を持つほどに指紋がつきまくり、その脂の痕がどうにも気にかかり、食事にもビールにも、そしてワインにも集中できないのだ。特にワインはエレガントたれ。そう思うほどにあのグラスは、嫌いかもしれない。

 グラスでひとつケチがつき、お料理のスピードについていけないジレンマに、微妙な居心地の悪さを感じてしまう。お料理は、おいしいと思う。お店の装いも、カウンターの作りもいい感じ。またこのお店のある街との調和も面白い。

 しかし食空間は、やっぱり難しい。どんなにいい食材を使っていようとも、どんなにいい技を持っていようとも、どんなに居心地の良い空間を演出しようとも、それがシステマチックに展開され、職人さんや女将さんとの息遣いが通じ合わないと、なんとも居心地が悪くなるから不思議だ。決して安くない価格設定に、お料理的には納得しつつも、どうにもケツの座りの悪い状況に、食の難しさを思い知る。

 反面教師たれ。「食」は、ホスピタリティの良し悪しに、これほどまでに致命的に影響を受けるものなのか。価格が高くなればなるほど、その割合は急上昇。ホスピタリティのしっかりとしたお店は、なぜに居心地がいいのか。そうでない店を通じて、改めて感じたりする。

 ところで、この和食店は、意表を突いた、予想外の街にある。そのギャップの面白さに再訪もありかと思いつつ、今度はお料理はゆっくり目にねと、伝えてからにしようと思ったりする。


おしまい

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