今年一番おいしかった料理 (2008/03/04)
 



 はやいもので、今年ももう二ヶ月終わっちゃいましたね。毎年、1-3月は個人的にとても暇な時期ですが、今年はミシュランやら、ザ・ジョージアン・クラブ閉店やら、ワイン販売などで、おかげさまで忙しくさせていただき、この場も借りてお礼申し上げたりします。(今週は甲府と静岡、来週は関西にて、よろしくお願いします)

 で、この時期には誰も振り返らないであろう企画ということで、現時点での今年の一番をピックアップしてみようと思います。今年に入ってから、三ツ星レストラン2箇所(いつものところですが・・・)でもプライベートに食事をさせていただき、きわめて高いレベルの感動が私のハートを揺さぶりましたが、今年一番おいしかったり料理をひとつだけ挙げるとしたら、先週食べた、日本の正統的フレンチの流れを汲む「ブラッスリーHxM」のお昼のコース料理の前菜になるかと思います。もちろん三ツ星のお料理は、どれも大変すばらしく、孤高の存在感を覚え、そのオーラ通りの味わいに、「ここが最前線」を強く意識させますが、HxMの前菜は、私の盲点をつくような、強烈なインパクトだったのです。

 ホタテと春野菜のテリーヌ 燻した鱒 みかんのソースとともに(命名 = 私・・・正式名称失念・・・すみません)

 ホタテと春野菜のテリーヌは、昼下がりの湘南のさわやかさにマッチして、とてもすばらしく、添えられたHxM定番の鱒の燻製風味を時折食べては、みかんのソースとの相性を楽しみながら、HxMはいつもおいしいなあと呟いていました。ここまでなら、いつもと同じ風景で、とやかくこの場を借りていうほどのものでもないのですが、問題は、なぜか一枚だけ添えられていた葉っぱにありました。

 HXMの野菜は地元の有機野菜をふんだんに使った瑞々しさを特徴としていて、野菜の生命力を感じることができますが、今回の葉っぱは、いつもと装いが違っていました。なにやらひどく元気がなく、萎れている様に思われたのです。野菜は農作物なのだから、たまにはこんな元気のない野菜が登場するのもやむをえないし、常に生き生きとした野菜を提供するのも難しいだろう。こんなことを指摘して、重箱の隅をつつくような真似はしたくはない。ここはひとつ、手っ取り早く食べてしまおうと思ったのでした。その葉っぱの存在を否定するかのように、ぱくっと食べると・・・。

 う。

 うまい。

 新鮮なテリーヌに目を奪われていたというか、この葉っぱも萎れてはいるものの、フレッシュに違いないと勝手に想像していただけに、そのギャップはすごいものがありました。菜の花の葉ぱが焼いてあったのです。葉っぱの焼き目を、萎びているという固定観念のために、見落としつつ、焼いた葉っぱであることにプチ衝撃を感じながら、すぐさま第二の衝撃が・・。今度は、私を押し倒さんばかりの勢いでした。大豆の、正確に言うと節分の豆の味がしたのです。香ばしく、サクサクとした歯ごたえに節分の風味が満載。これは、うまい。うますぎる。

 思わず歓喜の声を上げてしまいました。新鮮なおいしいテリーヌに添えられた、不恰好な萎れた葉っぱ。見た目の情けなさと焼いてあることに気がつかなかった盲点と、そしてなにより節分の豆まきの味わいに、私は今まで感じたことがないような、不思議な食空間をさまようことになったのです。このギャップをして、この二ヶ月間の最大のサプライズ。

 HxMおそるべし。菊池シェフ・・・おそるべし。

 こんな素敵なレストランが近所にあることに、大変な幸せを感じつつ、ここにいられる幸せが私を包み込みます。最近は、都内の有名レストランの関係者もたびたび訪れるというブラッスリーHxM・・・。ここがハッピーレストランの現場なんですね。食の最前線は、ここにもある。うれしい気分です。


 おしまい
 
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