今年の赤船には、ペリー総督が乗っていた (2008/11/25)
 



 ミシュラン東京版をして、幕末の動乱期になぞらえて、赤船来航という人がいる。ペリー総督が乗っていた黒船来航以前にも、日本近海には黒船が何度も来航していて、そのたびに幕府に開港を迫っては、かたくなに拒否されていたと聞く。今回のミシュランも、昨年の名刺代わりの新発売と比べて、明らかに赤船来航を意識させる内容になっているように思われて致し方ない。そしてそれは、来年発売と報道された京都・大阪版への強烈な布石となっているようにも思えてくる。

 今年のミシュランは、元厚生官僚殺害事件という異常事態によって、発売セレモニーの話題に水を指された格好になり、テレビでの報道は去年に比べて減った感はやむを得ないが、本そのものを手にしたものには、そんな事件が吹っ飛ぶほどのパワーを感じているかもしれない。それは、星の陥落と、三つのお店紹介のページに、ミシュランの意志を確認するからだ。

 毎年発売されるミシュランには、星の昇格もあれば、陥落もある。今回は閉店された数店は当然であるが、お世話になっている某店などもその対象に含まれ、その対応にどうしたらよいか(電話したりメールしたりするのも、最初の一言が悩ましげで・・・なんとなく遠ざけてしまったりしつつ、そろそろ、そんなことは知らないよ的に連絡してみようと思うこの頃だったりする・・・)、悩ましさは募りつつ、今回は、三つの紹介ページについて書き連ねてみたいと思う。

 「海味」   ふたつ星に昇格
 「よしはし」 ひとつ星初登場
 「四つ葉」  ひとつ星初登場

 今回、大方の予想通りに三ツ星を獲得した「石かわ」さんをはじめとして、ほかのお店紹介は、2ページの見開きになっている。あいうえお順の紹介は去年のままに、開くと左側上段にお店の内装写真、下段に料理の写真が掲載されている。右側には、お店紹介の文章と電話番号などのデータ、そして簡単な地図と玄関の写真が掲載されている。しかし、上記三店においては、料理の写真はなく、大通りからの建物全体の写真だったり、ご近所の豊川稲荷東京別院の写真だったり、荻窪白山神社の写真だったりが掲載されているのだ。ミシュランが、ガイドブックという性格を持っているならば、これらの写真は特に違和感を持つものではないが、お店の掲載(または撮影)拒否の申し出にもかかわらず、ミシュランが掲載を決めたとなると、事態は一変するのだろう。

 「うちはミシュランは断った」というお店の言い分が、今年はまったく通用しない。

 ミシュランの星のつけ方には賛否がありつつ、ここではそれはそれとして、あっちに置といて、ミシュランへの掲載はあくまでもミシュランが決めるという意志が、強烈に発せられている三店の紹介ページ。ここに真の赤船来航を意識するのは私だけだろうか。今年の赤船には、確実にペリー総督が乗っている・・・だ。特に「海味」については、2008年版でひとつ星を獲得したにもかかわらず、他店へのミシュラン対応に納得がいかず、掲載拒否を高らかに宣言していたはずだが、今年はお店の意思に反して、二つの昇格しての掲載だった。

 掲載を決めるのは、ミシュランである。

 その強い意志を豊川稲荷の写真に感じるとき、掲載をかたくなに断っている京都の日本料理の名店の掲載拒絶の意志に関係なく、来年、ミシュランは京都・大阪版を発売するのだろうと信じるに足りる豊川稲荷だったりする。ミシュランは日本料理の総本山をどう評価しえるのか、ふつふつと興味もわきつつ、個人的にも極めてお世話になっている大阪のフレンチに、星が輝くことも容易に予想が付いたりもする。

 ミシュランはミシュランの大儀を守るため、掲載二年目の三ツ星陥落はありえないという大方の予想通り、今年のミシュランは三ツ星陥落という衝撃波は封じたが、来年はきっと星を落とす店が出てくるであろうし、それと引き換えに六本木某店の某新日本料理店を昇格させ、東京版のトピックとし、そして三ツ星陥落からの衝撃を吸収させるがごとく、京都に、史上最多の三ツ星を輝かせることになるのだろう。

 昨年は、赤船が浦賀沖にやってきただけだったが、今年は確実に上陸して、来年はきっと畳の上で正座しているに違いない。それは、奇数ページの右隅に描かれたビバンダム君がうまそうに蕎麦を食べるアニメーションが描かれていることからも察せられるが、残念ながら、左手で箸を持っているところに、幕末の志士たちが懸念した思いと重なる空気を感じるのは、NHK大河ドラマ「篤姫」を毎回欠かさず見ているからだろうか(爆)

 赤船来航。そんなことを思いながら、つらつらとすべてのページを読んでみようかと思う晩秋の夜かも。


おしまい

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