にっぽんハッピーワイン


 顔の見えるワイン

 今日、注目を集めている日本のワイナリーに共通する事柄に、「生産者の顔」というものがあると思われる。雑誌には、生産者本人が多く登場するようになり、その経歴や哲学などが時にカラーページで紹介されている。ワインは、経験的に、そのワインを誰がどうやって造ったかがわかると、一層親近感を覚えやすく、とてもおいしく感じられる。これはワインに限らず、農業全般に言えそうで、ビールのコマーシャルでは有名野球選手と共に契約農家が登場するし、野菜売り場にいけば生産者の名前や写真が明記された野菜も少なくないようだ。(余談ながら、秋田のいぶりがっこにも、おばちゃんの写真がプリントされていて、個人的には佐藤さんのいぶりがっこがお気に入り・・・)

 日本のワインの大きな武器は、そのワインを誰がどういうコンセプトで造ったかが、ダイレクトに伝わってくるという点にあると思う。日本のワインは、日本人の共通言語である日本語で紹介され、造り手本人からも直接ワインの話を聞くことが出来る世界中で最もわかりやすいワイン産地なのだ。興味があれば、都心から2時間もあればワイナリーに行くこともできる。

 (ちなみに湘南界隈からは、勝沼界隈までなら、乙女峠、籠坂峠、御坂峠経由のオール下道で2時間半。中央道を走るなら八王子インターからなら勝沼インターまで小一時間・・・)

 ワイン情報の共有。それこそが日本のワインの醍醐味でもあり、生産者も消費者も日本語を通して、正確にコミュニケーションができる。そして日本のワインは、今、若手といわれる20代後半から40代前半の造り手が注目を集めていて、彼らと消費者との間に世代間のギャップはあまりなく、より一層親しみを覚えやすくなっていると思われるのだ。

 日本のワイナリーは、日本を代表する大手企業ももちろん参入しているが、地元系の小規模ワイナリーも多く、彼らは夫婦二人だけで営んでいたり、親子だけだったり、有志数人が集まったりと、それはあたかもブルゴーニュの生産者と同じような規模。そのワイナリーに行けば、造っている本人と会話ができ、一緒に試飲もできる。家族ぐるみのお付き合い・・・とまではいかなくとも、ワインを愛する心を共有する者たちは、すぐに打ち解けて、ワインを通して、方や生産者として、方や消費者として出会うこともできたりするのだ。それは家族系ワイナリーだけではなく、地元中堅企業や異業種参入企業とも、もちろんあり、彼らの規模は、一見すると消費者との間に少しばかりの溝も作りがちだが、社長業の偉い人が前面に出るのではなく、栽培や醸造の責任者たちが表舞台に出ることによって、(消費者と直接触れ合うことによって)、その距離感は大いに縮まり、家族経営ワイナリーとの親近感とも遜色がなくなってくると思われる。例えば、佃煮で有名なフジッコが造るワインは、ヤクルトの古田選手似の雨宮氏が、お菓子で有名なシャトレーゼには、ナインティナインの小さいほうによく似た戸澤氏が、勝沼御三家の一角を占める勝沼醸造には、熟成型カレーを作られたら屈指の小林氏が、原茂ワインには、イタリアの土着ぶどうに造詣が深すぎる杉山氏が、ダイアモンドには、ぶどうにつく虫の話をさせたら日本一の雨宮氏が・・・。(枚挙に暇がないので、以下省略)

 逆に言えば、生産者の生の声が届きにくいワイナリーは、親近感や情報伝達という点において分が悪くなり、造られるワインが泣かず飛ばずの状態になりやすそうで、例えばレストランでも酒屋さんでも、そういうワインはお客様にも提案しにくという声を聞くに及びつつ、日本のワインブームに乗り遅れやすそうではある。

 いずれにしても、ブルゴーニュ魂は、顔の見える生産者に注目しつつ、それは何も日本を特別視しているわけではなく、ブルゴーニュのドメーヌやシャンパーニュのレコルタン・マニュピュランの多くに共通している事柄だったりもするので、おいしいワインが大前提ではあるものの、造られるワインの情報を共有して、そのワインの大いなる楽しみに迫れればと思っている。


つづく





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