にっぽんハッピーワイン


 ワイナリー訪問の楽しさ、難しさ。

 勝沼界隈のワイナリーの多くは、平日・週末を問わず一般消費者の来場を歓迎しているので、気軽にワイナリーを訪問できるのが楽しかったりする。東京から僅かな時間を割けば気軽に訪問もできて、日本のワインの現場の声をダイレクトに見て、聞くことができるのだ。日本のワイナリーは、その大きさで分けると、3つのカテゴリーに分けられ、それはつまり大・中・小のみっつ(そんな大雑把な分け方で良いのかという素朴な疑問を抱えつつ、話を前に進めてみよう)で、タイプ別にワイナリー訪問の特徴を列挙してみようと思う。


【大手ワイナリー】

 日本を代表する大規模ワイナリーには見学コースが完備されていて、ボルドーのシャトー巡り同様女性スタッフが工場内の製造工程などを引率してくれて、丁寧かつ笑顔でワインについての解説をしてくれる。ブドウの破砕からワインの醸造・樽熟成にいたる全行程を見学できる仕組みになっている。そこは、ワイン造りをトータルで知るには絶好の場所だと思う。もちろん女性スタッフたちとの語らいも楽しいなあと思いつつ、コースの最後にはワインの試飲もセットされているので、酔いに任せた彼女たちに対するセクハラも頻繁に起こっている様で、なんだかなあと思いつつ、彼女たちの苦労も分かち合ったりする。(でもそれを機に親しくなったことは一度もないなあ・・・)大手ワイナリーの見学はワインの出来る工程を見ることが出来、その巨大な設備に圧倒されながらも、美しい工場を見てまわれるので、とてもいい感じである(ただし二回目以降は飽きたりするが・・・)。


【小規模ワイナリー】

 小さいワイナリーでは、家族経営ゆえに、ワインの生産工程の一つ一つを解説する余裕も時間もないが、ブルゴーニュと同じく、造り手本人が接客してくれるので、ワイン造りの楽しさや苦労話は、雑誌で読むのとは違った面白さがある。「現場な」人たちとのワインの話は、ワインが好きであればあるほど楽しくなってくるから不思議なのだ。ただ聞くところに寄れば、造り手側としても、そのお客様が何を聞きたいのか図りかねる情況も多いらしく、漠然とした、例えば、ワイン造りの面白い話をしてください云々の質問も意外と多いらしい。その手の質問には、何をこたえていいのやら、ワイン造りのプロは接客のプロとは限らないので、彼らの戸惑う顔が目に浮かぶのだった。ワインの話はより具体的な質問のほうが答えやすく、それでもいわゆるワインオタクな人からの質問は、その人はワインを造るわけではないので、専門的な質問に答えつつも、どうもしっくりこないやり取りも展開されているようである。造り手とワインの喜びを共有できる会話の一つや二つができたら、ワインは一気に楽しくなるのだろう。いずれにしても造り手本人の話は、とても面白く、彼らの迷惑にならない範囲で(その見極めが難しく、私の場合は迷惑かけてるなあと自覚しつつも、もうちょっと・・・いつもすみません・・・)、いろいろなエピソードを聞きたかったりもする。これぞワイナリーめぐりの醍醐味だろう。


【中堅ワイナリー】

 実はこのカテゴリーのワイナリーの訪問が(ブルゴーニュ魂的には)最も難しいと思う。どのくらい以上どのくらい以下を中堅と呼ぶのかは微妙ではあるが、このクラスのワイナリーの訪問は往々にして中途半端になりやすく、結構難しい。先日も勝沼界隈の某ワイナリーをひとりで訪問したのだが、事務方の女性と一対一での試飲は、嬉しかった反面、どうも話す会話も探し気味で、専門的な話は事務方の彼女らには酷の様であるし、来てしまった以上何か買わないと出られなそうな雰囲気に負けてしまったりもした。

 その日は事前に電話でアポイントをとっていて、事前に見学コースはなく試飲だけになる旨の説明はあった。約束の時間に少しばかり遅れつつ、受付の扉をノックすると、中から事務員さんが現金の入った袋を持ちつつ、別棟二階の試飲ルームに案内してくれた。後でわかったことだが、彼女が現金袋を持ってきたのには理由があり、どうやら試飲ルーム兼販売所のレジは閉めているようで、その現金でお釣りの用意をしているらしかった。

 試飲は3本ほど行い、それらは全て抜栓され半分ほどなくなっていたものだったので、こちらとしても負担を感じず、試飲に専念できた。そういえば、昨年末に行われた甲州ワインの某試飲会でもここのワインが入賞していた記憶もあり、「そのワインはどれでしたっけ」と質問すると、シャルドネで造られたワインを案内してくれた。ん。甲州ワインの試飲会に、シャルドネはなかったように思いつつ、そのワイン自体も別のコンクールで入賞していたので、なんか勘違いしていることを知りつつも、まあいいかと流してしまった。もう一本のちがうボトルには、若干のコルク臭が感じられ、「これって健全ですか?」と質問しつつも、この人は何を言っているんだろうモードで眺められては、次に出てくる言葉は、見つからなかった。ぎこちない会話が途切れ途切れに展開されつつも、私は完全にテイスティングに徹し、ワインをほき出す姿を彼女も確認しては、車での来社に気を遣ってくれ、最後にぶどうジュースをサービスしてくれた。「これって品種は何ですか」少しでも会話を盛り上げようと思いつつ、彼女はその答えを用意していなかった・・・。内線で同僚と会話しつつ「あ。○○です(ここからバレルと不味いので伏字にしておこうかな)」

 事務員さんに仕事の手を休めてもらい、たった一人の訪問者のテイスティングをお付き合いいただき、貴重な時間を割いていただいたことに感謝しつつも、これ以上の滞在はお互いにとっても、いいようにはならないようで、うまいと思った甲州ワインを一本買いつつ、私は解放されたのだった・・・。

 本当はここのワイナリーの実力は、相当高いらしいという評判も聞きつつ、次に訪問する時は、醸造担当の方を指名しようと思ったが、一般消費者が来社したときは、今回のような状況になることが容易に想像でき、ワイナリー側の好意が大手や小規模ワイナリーほどには、伝わりにくい中堅ワイナリーは、一歩間違えれば後回しにしがちで(というか、実際そうなってしまっているが・・・)、大手のようなボルドーやシャンパーニュのメゾン系の見学とも、ブルゴーニュ的な家族経営ワイナリーの見学とも正確を異にする中堅ワイナリーの今後を、勝手に心配したりするのであった・・・。

 中堅ワイナリーの顔の見えなさ加減が、ブームに乗り損ねかねないと思いつつ・・・。


つづく





HOME

Copyright (C) 1988-2005 Yuji Nishikata All Rights Reserved.