ワインセミナー外伝 2007/11

大阪でのワンシーン

11月最初の日曜日の夜。大阪・某所で企画していたセミナーが、いろんな都合が重なって中止となってしまいました。原因については、真摯に受け止めつつ、次回の成功へと導きたいと思いますので、関係各位に改めて御礼とお詫びを申し上げるしだいです。

 で、この会には、HPやブログ、メールなどを通じてご縁がある方にも私のほうからお声がけしていて、このままハイソウデスカで、終わらせるには、あまりにも残念で申し訳なく、大阪情報に詳しい某女史の助けを借りて、急遽お店をエスポワールさんに変更し、こじんまりとした旨をお伝えしつつ、ご賛同いただき、開催することが出来ました。この場も借りて厚お礼申し上げます。

 この会についてはすでにご参加いただいた方々に紹介していただいていますが、改めて、私なりにご紹介したいと思います。

 某氏のブログ
 某氏のブログ
 某氏のブログ(順不同)

 今回は少人数ということもあり、私も着席して、食事を楽しみつつ、私が選んだワインをロブってもらいました(注)。冒頭の理由により、ワインを事前にお店に送ることが出来ませんでしたが、それでも前日のお昼には、お店を訪問して、冷蔵庫の中で休ませることは出来ました。(余談ながら、大阪のランチは、極めて安くて、おなかいっぱいになりますね・・・。うれしいなあ) 前日搬入ということもあり、赤の古酒は具合も悪かろうということで、白の熟成をさりげないテーマに掲げつつ、4種類のシャルドネと赤ワインをお楽しみいただきました。(各ブログのコメントをご参照ください)

ワインリスト

2005 セレクション シャルドネ  機山洋酒工業
1993 サビニー・レ・ボーヌ     ジャン・ミッシェル・ジブロ
1995 プイイ・フュイッセ・ノリー  ヴァレット
1992 ムルソー1級ペリエール   ジャック・プリュール
2005 シャンボール・ミュジニVV  ユドロ・バイエ

(2004年のペロミノのクロドベズを某氏より差し入れしていだき、大感謝です。)

 さて、白ワイン4種類はいずれもシャルドネ。一本目は日本のシャルドネということで機山をチョイス。すでに店頭からなくなって久しいワインですが(山梨県内某店にはまだ売ってますが・・・来週買いにいこっと)、棚式栽培と垣根式栽培のブレンドによって醸された逸品です。(ちなみに今年は、垣根の方の収穫を、少しだけ見学しています)

 事前情報によれば、ご参加いただいた某氏と某女史が機山のご夫妻の大学の先輩に当たるとかで、そんな話題で、トークのきっかけを作りつつ(何しろ全員の方と初対面だったもので・・)、デカンタージュ後に、ふたつのロブマイヤーにてサービスしました。冷蔵庫の温度がことのほか冷たく、かなり冷たい温度からのスタートでしたが、室温に戻るにつれて、シャルドネの特徴香も出つつ、日本「らしさ」も、いとたのしでした。日本ハッピーワイン・・・。そのおいしさはロブマイヤーで特徴付けられると信じたりしています。機山おそるべし。

 で、続いてのサビニーの裏テーマは、無名の造り手の93年は、どんな熟成を遂げているのか、です。選んでいて恐縮ですが、ジャン・ミッシェル・ジブロって誰? すみません。

 周知のとおり、サビニーにはシャルドネのほかに、ピノ・ブランも植わっています。このワインの品種構成は全く不明ですが、シャルドネのキレとピノブランのコクのニュアンスが、酸化防止剤の歯止めというか効果を受けつつ、面白い熟成を遂げていました。14年も経っている割にはフレッシュ感もあり、色あいにも古さをあまり感じさせず、さりとてしっかりと熟成に、いい感じのミネラルも加わって、これはこれで面白いワインかと思ったりします。価格もそんなに高くないので、(といってももう売っていないかも)、例え造り手を知らずとも、93という白ワインにとってはそれほど長熟なビンテージではなくとも、流通経路が遡れるワインにつき、とても面白い白ワインでした。(前座のつもりでしたが、その心がけに詫びを入れたい気持ちです)

 そしてメインのヴァレットです。一説にはマコンのモンラッシェと比喩される向きもあるようですが、この地区の最優秀ヴィニュロンのひとりに挙げられるヴァレットのフラッグシップワインが、このプィィ・フュイッセ クロ・ド・ムシュー・ノリーです。おりしも二週間前にパリでヴァレットご夫妻に遭遇しつつ、パリでは99年を試飲させて頂いていました。95年を何本か持っているよと奥さんに伝えると、それはすばらしいと褒めてもらいました。60ヶ月=5年にも及ぶという長期の樽熟成を得るという独特の哲学は、他の造り手には余り例を見ず(コート・ド・ボーヌのドミニク・マクマオンやシャンパーニュのジャック・セロス(ソレラ・システムですが)などが頭に浮かびます・・・・)、この手法が彼のワインを特徴付けていることは確かなようです。

 95年にして、黄金色の不思議な熟成感。シェリー香にも似た酸化のニュアンスを感じつつも、紅茶や貴腐のニュアンス、蜂蜜や焦がし目のバターのブーケも楽しげです。個人的に思うに、このワインは、人がおいしいワインを造ろうとした傑作かと思います。マコンというモンラッシェではない場所で、モンラッシェに比肩するワインを造ってみた。そんな感じがするのです。とてもおいしいが、そのおいしさの影に努力と英知が見える。モンラッシェの「なんだか知らないけど、とてもおいしい。完全な球体」とは一線を画す、人工の美しさを感じたりもします。

 おいしくなろうとするワインの不思議なおいしさ、とでも言いましょうか、いくぶん感じる人の手の温もり。面白いですね。そもそもモンラッシェも、人の手が加えられて醸される白ワインですが、その手の入れ方に、一工夫を感じるところが、ヴァレットの真髄でもあり、その高いレベルはモンラッシェと比較されてしかるべきかと思います。今回はモンラッシェとの直接の比較は出来ず、またブラインドでもないので、私の一方的な先入観に、相当部分は支配されていますが、ロブマイヤーという物差しで計って、そのおいしさを体で受け止めるほろ酔い加減に、シャルドネの熟成のひとつの答えを見たような思いもします。普通のマコンの数倍の価格で取引されるワインですが、マコンのポテンシャルを知るには、欠かせないワインのひとつかもしれません。プュイイ・フュイッセ恐るべし。(この村のもう一人の天才ギュファン・エイナンとの比較も楽しそうですね)

 最後に1992という白ワインにとって成功したビンテージのムルソーを代表する一級畑のペリエールを、当時は普通の生産者であったジャック・プリュールの作で楽しみました。畑・天候・造り手のトライアングルのうち、二つが飛びぬけてすばらしいワインというとジャック・プリュールに怒られそうですが、15年のときを経て、ヴァレットとは違い、ごく普通の樽熟成を経て、フランス国内で十分な瓶熟成を遂げた白ワインをロブってみました。

 ムルソーという、いくぶん酸の不足を感じさせるアペラシオンにして、硬い酸が特徴のピュリニー・モンラッシェに接するペリエールは、ムルソーの中でも最も熟成が期待される畑ですが、このワインはまさに今この瞬間の華やかさが飲み手のあごを一瞬のけぞらせるパワーを持っています。このワインはこの一ヶ月間に何回も開栓していて、そのたびに微妙なボトル差を感じてはいますが、概ね美しい熟成を遂げていて、シャルドネのゴージャスな香としっかりとしたミネラルに、思わず唸りたくもなってきます。そしてビンテージと畑に支えられているなあと、ふと思いつつ、ゴージャスの中に、コンパクトさも感じる楽しさでした。

 今回は少人数ながら、ロブマイヤーの二種類のグラスにサービスさせて頂き、グラスの形状によるワインの味わいの変化をも検証していただきました。華やかなシャルドネを表現するにはブルゴーニュが、よく似合います。当初はその丸い形状ゆえに、ワインの味わいと香に独特の重みを感じるグラスV。両者の違いが楽しい作業です。また後半のへたりを予防するためには、グラスVのほうが優位に立つような気もしますが、いかがでしょうか。ワインの温度や形状、残り具合、注ぎ方によって味わいを常に変化させるワイン。(私は、グラスは回しません) その魅力の一端でもご紹介できていればうれしいです。

 今回は予想に反して、冷蔵庫があまりにも冷たかったので、温度を上げるためにも、香味成分に刺激を与えるためにも、全てのシャルドネをデカンタージュをしました。またムルソーにいたっては、早々に室温(よりやや低め)に戻すべく、デカンタにワインを入れた状態で、ぬるま湯に浸けて、温度を微調整させていただきつつの進行で、温度の乱高下がどの程度ワインの味わいに影響を及ぼしたかまでは、追跡できませんでしたが、私も飲みながら、食べながら、という感じだったので、その点はご容赦いただければ幸いです。

 そして白が続けば赤ワインも欲しくなるのは世の常ですね。今回は、ダニエル・リヨンの2000ヴォーヌ・ロマネをお楽しみいただこうと思いつつ、ふとラベルを見れば、ユドロ・バイエと書いてある・・・。間違えて持ってきてしまいました(爆) すみません。

 で、そのシャンボー・ミュジニを二つのグラスへ。個人的にシャンボール・ミュジニには、ミュジニ以外にもたくさんのシャルドネを植えるべきと信じつつ、この村のワインはなぜかモンラッシェやコルトン・シャルルマーニュを含むコート・ド・ボーヌの白ワインとの相性が抜群のブルゴーニュグラスでの味わいが好みです。華やかさ、エレガントさ、女性的な美しさを表現するには、グラスVでは役不足かと信じます。(グラスVの個性も嫌いではないのですが・・・) 

 ユドロ・バイエのシャンボールめどうだったでしょうか。若いといえば若いですが、私は若いワインのほうが好きなので・・・。いろいろすみません。

 ワインもなくなって、お料理もなくなって、さて、というときに某氏よりクロドベズの差し入れが。ありがとうございます。ペロ・ミノのネゴシアン系ワインですね。気がつけば、ペロミノはジュブレ・シャンベルタン村の多くの特級畑を有するにいたりつつ、最近は濃縮系の「右岸でシラーズ」的なワインの象徴的な存在になりつつありますが、このワインはペロ・ミノがほとんどタッチしていないせいもあってか、ビンテージの個性ゆえか、いわゆる「ペロッ」てませんでした。和のステージに似合いそうなお出汁系の味わいは、私の好み。大変おいしくいただきました。

 というわけで18h00にスタートした楽しい食卓も、気がつけば23h00。おおお。楽しいひと時はあっちゅーまですね。私はこの後、翌日の打合せなどもかねて心斎橋のワインバーにお邪魔しようと思っていたのですが、某氏と某氏よりもう少し飲みましょうという、ありがたいお誘いを受け、ロブマイヤーを12客もタクシーに抱えて鰻谷商店街のそのバーへ・・・。取り合えず、のビールを飲みつつ、2000年のポマールを楽しみました。ポマールのやさしい味わいに、楽しい宴はもう少しだけ?続くのでした。ありがとうございました。

 そんなこんなで、楽しい大阪秋の陣のひとコマでした。関係各位にこの場も借りてお礼申し上げます。冬の陣でもぜひお会いしたいです。いろいろよろしくお願いします。って何を(笑)



(注 ロブる=ロブマイヤーでワインを楽しむ 造語)

以上



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