ヴィコント・リジェ・ベレールのラ・ロマネ
Domaine : VICOMTE LIGER-BELAIR (Ch.de Vosne-Romanee)
ドメーヌ : ヴィコント・リジェ・ベレール (シャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネ)
本拠地 : ヴォーヌ・ロマネ村
看板ワイン : 特級ラ・ロマネ
特徴 : ラ・ロマネを単独所有。2002年より自身で醸造
輸入業者 : 日本向けは一社単独 (エノテカ)
ジャン・ミッシェル・リジェ・ベレール (ラ・ロマネ)

2005年1月追記

社名変更について
 2005年よりVICOMTE LIGER-BELAIRは、
 COMTE LIGER-BELAIRに変更になりました。
 VICOMTE = 子爵 から COMTE = 伯爵に
 昇格になったわけです。

 (本人から、あいさつ文を頂戴しました) 2005/01/15記


ラ・ロマネ
 世界一の赤ワインは、ロマネ・コンティである。そのロマネ・コンティの畑に西側で接っするのが、同じく特級のラ・ロマネ。そして今、ブルゴーニュにおいて劇的に変わろうとしているワインの筆頭格が、このラ・ロマネであろう。Appellation La Romanée Contrôlée アペラシオン・ラ・ロマネ・コントローレ。特級ラ・ロマネは、その面積僅か0.845haのフランス最小のアペラシオン(原産地呼称統制)である。かつてラ・ロマネはボーヌのネゴシアン ブシャール・ペール・エ・フィス社が畑の所有者であるリジェ・ベレール家との契約により、貯蔵管理、瓶詰め、販売を一括して行っていた時代があった。しかし、そんな時代は終わった。所有者のリジェ・ベレール家自らがワイン造りに着手したからだ。新しいラ・ロマネはどこへ行くのか。非常に興味深いテーマだ。そして、かの地に飛んで、直接本人に話を聞きたい衝動を抑えることは、私には出来ない相談だった。

 シャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネを所有するリジェ・ベレール子爵家(=ヴィコント)は、かつてブルゴーニュきっての大地主だった。当主のジャン・ミッシェル・リジェ・ベレール氏によれば、フランス革命後にシャンパーニュからブルゴーニュに拠点を移し、所有する畑は60haを超え、その台帳にはシャンベルタンからクロ・ド・ヴージョ、エシェゾー、ラ・ロマネそしてラ・ターシュといった大銘醸畑を連ねていたという。そして村の中心に位置するシャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネは、今でもシャトーの名に相応しい存在感がある(但し塀に囲まれているので、塀の内側に入らないとその存在を意識することがないところが辛い)。場所は有名な観光案内板の隣だが、その肝心の案内板にはシャトーの表示がないので異国の訪問客にその姿を見せることも少ないようだが、一見の価値は大いに「あり」である。

 子爵家はロマネ・サン・ヴィヴァンの大地主マレー・モンジュ家とも婚姻関係にあり、その影響力も大きかったと推測できるが、相続問題や他の職業の選択などによって、畑は徐々に小さくなり、今日ドメーヌが所有する畑は4ha弱まで小さくなった。そしてブルゴーニュに移り住んで7代目に当たるジャン・ミッシェル氏が、子爵家ではじめて、自らブドウ栽培とワインの醸造に携るヴィニュロンとしての道を選択したのだという。2000年がドメーヌとしての初ビンテージで、それ以前は、本人はディジョン、ボルドー、トールーズなどで実習を積み、アメリカのナパバレーでも働いていたというから、その意欲は旺盛である。

 さてラ・ロマネであるが、劇的な変貌を遂げている。まずは畑が変わった。私はかつて何度もこの畑には足を運んでいたが、その度にロマネ・コンティとの手入れの違いをまざまざと見せつけられ、畑の名声に胡坐をかいたタカビーな印象が拭えなかったものだ。ロマネ・コンティが柔らかく、うまそうな土であるのに対し、隣のラ・ロマネはいつもカチコチで、およそグランクリュとは思えない雰囲気を漂わせていた。ロマネ・コンティとは畝の向きが90度違うため、その境界線に立つと、道を挟んでかたや50万円、かたや3万円という値段のつけ方に納得せざるを得ない面もあった。

 ところがである。今ラ・ロマネを訪れると、畑は耕され(時々馬で耕している)、柔らかくうまそうな大地へと変貌を遂げているではないか。畝の向きが違うだけで、その土の色も耕し具合も、ロマネ・コンティに引けを取らない驚異的な変貌がここにあるのだ。当主ジャン・ミッシェル氏の哲学を反映して、確実にラ・ロマネは変わっていく。畑に立てば、その変化は一目瞭然だ。ちなみに畝の向きの理由を尋ねると、作業効率を第一に挙げた。これはモレ・サン・ドニ村の特級クロ・ド・タールの畝の向きを解説してくれたシルヴァン・ピティオ氏(クロ・ド・タール責任者)と同意見だった。

サンパティークないい人
切口から涙がこぼれ春到来
4月 ラ・ロマネにて
ジャン・ミッシェル氏と
シャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネ
ラ・ロマネのエチケットはまだ無い
(2003/04現在)

 ここで補足が必要だ。ラ・ロマネは2002年ビンテージより畑の所有者のドメーヌ・ヴィコント・リジェ・ベレール自らが栽培、醸造、瓶詰め、販売を実施しているが、ブシャール社との契約により2005年ビンテージまでは、出来上がったワインを折半するというのだ。つまり2002 2003 2004 2005の4つのビンテージでは、モノポールのラ・ロマネにはふたつのエチケットが存在することなる。そして2006年ビンテージからは、ついにドメーヌ・ヴィコント・リジェ・ベレールが単独にリリースする運びのようである。4月現在、シャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネのカーブで樽熟成されているラ・ロマネは13樽。そのうち6.5樽分を2003年7月までにブシャール社のカーブに移すという。4月現在2002年のすべてのラ・ロマネはここにある。重要な事実である。そしてラ・ロマネのほかに一級レニョと村名格のコロンビエールの一部もブシャール社に移されるという。ちなみにドメーヌが所有する畑は5種類あり、つまり3/5の割合。ブシャール社との関係がまったく無い完全に単独で醸造、販売されるのは、一級ショームと村名格でモノポールのクロ・デュ・シャトーである。

テイスティング
 2002年のバレルテイスティング(試飲順)
ワイン 格付 本数 初ビンテージ 味わい(ダイジェスト版) 特記
ヴォーヌ・ロマネ コロンビエール 村名 1200 2000年 赤系果実メインでエキゾチック  .
ヴォーヌ・ロマネ クロ・デュ・シャトー 村名 3300 2000年 赤系果実でミネラリーなエレガントさ モノポール
ヴォーヌ・ロマネ ショーム 1級 600 2000年 赤系果実でリッチなエレガントさ .
ヴォーヌ・ロマネ レニョ 1級 1650 2002年 黒系が品よく混ざり、一層リッチ .
ラ・ロマネ 特級 3900 2002年 黒系。濃縮感と構造の違いがまざまざ。 モノポール
    
 ラ・ロマネの存在感たるや、すばらしいものがある。従来よりラ・ロマネには濃縮感のある黒系果実味が特徴だったが、その傾向は踏まえつつ、よりエレガントに、よりリッチに、それでいて力強さを持ち合わすバランスがとてもすばらしい。レニョはラ・ロマネに接し、畑の真ん中に植えられている木のラターシュ側を所有している。表土は僅か30cmしかなく、石灰系で大きな石がごろごろしているのが印象的だ。勢いのある黒系ベースで動物香とミネラルが私の細胞を刺激する。ちなみに冒頭の写真は、これからジープに乗ってレニョの若木を植えに行くところでハイチーズ。ショームは僅か二樽しかないが、平均樹齢50年のしなやかさと力強さ、そしてエレガントさが共存する女性的でこの村の特徴をリッチに表現している逸品。クロ・デュ・シャトーはシャトーの目の前にあり、石灰系の土壌。コロンビエールはややもすると優しくなりがちな村名にして、エキゾチックさがうれしくなる。ちなみに樽熟成は100%新樽を使用し、酸化防止剤も最小限にとどめているという。ワインはエレガントであり、とても最近立ち上げたばかりのドメーヌとは思えないほど魅力的である。さすがは大銘醸畑のポテンシャルの高さに感激しつつ、子爵家のイメージからは程遠いサンパティーク(親しみがあり、友好的)なジャン・ミッシェル・リジェ・ベレールの今後に大いに注目したいところである。 


おまけ
 さて、日本での流通だが、エノテカ社が単独で日本に輸入するという。上述のように、2005年ビンテージまではラ・ロマネはブシャール社経由のワインもあり、ブシャールの代理店はサントリーである。二社が競合し、新たなるラ・ロマネが店頭に並ぶ姿が目に浮かぶ。両社の競合により、価格面と品質面の両方から競い合ってもらい、最良のワインが店頭に並ぶことを期待してやまない。また第三国経由で日本に輸入されるラ・ロマネも当然あるだろうから、最良のコンディションのワインがお茶の間に届くことを願いつつ、ラ・ロマネの新たなる挑戦に期待は膨らむばかりだ。


以上


 2003/05/15
 2003年4月、当主ジャン・ミッシェル・リジェ・ベレール本人とのインタビューを元に構成。
 またLA MER DU VINにも堀さんの視点からのレポートがあるので、ぜひ。
 このレポートを受けて、「ラ・ロマネを巡る冒険」はお蔵入りにします。

 


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