クリストフ・ペロ・ミノの野望
Domaine : Christophe PERROT-MINOT
ドメーヌ : クリストフ・ペロ・ミノ
本拠地 : モレ・サン・ドニ村
看板ワイン : 特級シャンベルタン
特徴 : シャルムとマゾワイエールを別々にリリース
販売比率 : 日本 = 25% ・ アメリカ = 20% など
クリストフ・ペロ・ミノ


 今、ブルゴーニュで最も熱い男の一人にクリストフ・ペロ・ミノをあげることが出来るかもしれない。若きクリストフは甘いマスクの影響もあるためか、地元紙をはじめ日本での露出度も高い。そしてなにより黄色のラベルはデパートの売り場でも相当目立つようで、遠くの売り場からでも確認できるほどの特徴を持っている。1999年以降、ブルゴーニュを代表する銘醸畑を次々と手に入れ、拡大路線を突っ走り、それでいて評価を下げずに大健闘する男が、クリストフ・ペロ・ミノである。今年2月に来日した際にはあまり語り合うことが出来なかったので、2001年の瓶詰めを終了した頃合を見計らって、モレ・サン・ドニ村にある彼のドメーヌを訪ねてみた。

 ここで少し整理してみよう。クリストフ・ペロ・ミノの拡大路線は次の通りだ。
1999 特級シャンベルタンをリリース
2000 ドメーヌ・ペルナン・ロサンを買収。ヴォーヌ・ロマネ村のカーブと5つのワインをリリース註1
ニュイ・サン・ジョルジュ・リシュモン
ヴォーヌ・ロマネ・シャン・ペルドリ
ヴォーヌ・ロマネ・レ・ゾルム
ヴォーヌ・ロマネ1級ボーモン
シャンボール・ミュジニ1級シャルム
2001 特級クロドヴージョをリリース。区画はアンヌ・グロのそれに近いグランモーペルチュイ。 
2002 特級シャルム・シャンベルタンにもう一区画取得。クリストフ名でリリース予定。註2
ジュブレ・シャンベルタン1級カズティエをリリース予定。
ジュブレ・シャンベルタン1級をリリース予定。註3

本人曰く、これで打ち止め。

註1 有名な白の一級モンリュイザンは買収せず、新設されたペルナン・ロサン財団の傘下に入っているという。

註2 現行のアンリ・ペロ・ミノ名義とは別の区画で、ふたつのシャルム・シャンベルタンが存在することになる。
註3 ポワスノ カピオ シャルボード シャンポーの4つの一級畑のブレンドにより約3000本の予定
注4 後日の取材により、パストゥーグランなどの格下の畑は売却し、トータルの面積は従来規模を維持するという。



 畑の入手が困難なブルゴーニュにあって、この拡大路線は異色である。畑の所有形態はメタヤージュなどの賃貸契約がほとんどとのことだが、よくもここまで獲得できるものだと感心せずにはいられなくなる。そして何よりその豊富な財源がどこから出てくるのか、まことに大きなお世話ながら、興味も津々だ。

 しかしここまで拡大路線を強調すると、品質の低下が心配である。商業ベースに走り、質よりカネを優先する経営に切り替わってしまったのかと要らぬ心配もするようになる。日本のインポーターとも4社と契約し、商売上手な一面を覗かせてもいる。私は、諸般の都合により、毎日モレ・サン・ドニ村のドメーヌの前を横切っていた関係で、ほぼ毎日クリストフと顔を合わし、いろいろ話す機会に恵まれたが、毎日懸命に働く姿が印象的であった。クリストフいわく、モレ・サン・ドニ村とヴォーヌ・ロマネの旧ペルナン・ロサンのカーブを往復する日も続いているという。私もたびたび車に乗せてもらいながらワイン談義は続く。

 ところでパリ某所からの情報によれば、クリストフは天才アンリ・ジャイエをドメーヌの顧問に迎え、品質の向上に心血を注いでいるという。2002年ビンテージよりピジャージュを最小限に抑え、色調の薄いピノノワール色を実現しているという。しかし、その情報はガセネタであった。確かにクリストフはアンリ・ジャイエを師匠とあがめ、ヴィニュロンとしての指導を受けているというが、改めて契約を交わしたことはないとのこと。それが証拠に、ワインはペロ・ミノ節よろしく従来の濃い色合いを2002年ビンテージでも達成し、ジャイエ節とは一線を隠す色調であった。

 そんな裏情報に翻弄されつつ、スイスのインポーターとともに2002年をテイスティング。(前日は2001年ビンテージの試飲を経験。クリストフの好意によりビンテージを変えて二日連続とあいなった)。ここの全アペラシオンは膨大な数に上るため、代表的なワインのみを14種類ほどピックアップ。ちなみにサンプルとして樽からハーフボトルにボトリングされたワインをテイスティングルームにての試飲だった。

 特級ワインの試飲順は次の通り。
 クロ・ド・ヴージョ (2001から)
 シャルム・シャンベルタン (初ビンテージ・クリストフ名義でリリース予定) 
 シャルム・シャンベルタン (従来のアンリ・ペロミノ名義) 
 マゾワイエール・シャンベルタン(シャルムとは500Mほど離れている) 
 シャンベルタン (1999から)

 味わいは、濃縮感がある果実味が特徴で、黒系果実をジャムにしたようでもある。ムラサキを配する黒系の深い色合いは、ボルドーを愛する人たちに受け入れられやすそうな感じがするが、少しエキス分の絞りすぎ的な印象は好みを分ける可能性がある。それぞれに新生ペロミノ節を強調しながら、各アペラシオンの個性を十二分に引き出す味わいとなっている。そして新しくシャルム・シャンベルタンの区画を入手しながら、そのテロワールを尊重すべく、従来の区画とブレンドすることなく別キュベとしてリリースするというから真剣である。クリストフ名義とアンリ名義のふたつのシャルム・シャンベルタンがどんな味わいなのか。それは日本での再会まで内緒にしておこう。
 
 試飲を終えて思ったことがある。クリストフ・ペロ・ミノは運がいい、ということだ。スタッフがきびきびと働いていて好感が持てるとともに、何よりもビンテージに助けられているからだ。2年続けて良作となったブルゴーニュの赤にあって、拡大路線による品質の低下は今のところ杞憂に終わっている。テロワールの個性をそのまま達成し、さすがグランクリュの実力を開花させている。しかし、まだまだ安心は出来ない。売り上げが増大し、規模が大きくなるにつれ、ドメーヌの個性が失われやしないかとの心配は隠しきれないからだ。いつの日かオフビンテージが到来したとき、クリストフの力量が真に試されるのではないかと思いつつ、常に注目していたいドメーヌのひとつだったりもする。

 ただし個人的な好みからすると、この色の濃さは若干閉口モードであり、ブルゴーニュの魅力を繊細さに重きを置いていると、やや違うかなと思わざるを得ないところが辛くもある・・・。いずれにしてもこの濃縮した味わいは、ピノ・ノワールのひとつの表現方法であり、ペロ・ミノの挑戦は期待も大きい。

 そして余談ながら日本の企業も4社の業者と取引しているため、各社のワインに対する哲学が表面化する可能性もある。もしも輸送能力や販売哲学などの差が味わいの差となって現れてくるならば、ペロミノを通して各社の優劣が表面化する可能性もあり、それもまた違った楽しみの一つになるかもしれない。


以上


 2003/05/09
 クリストフ・ペロミノ本人とのインタビューを元に構成した。
 


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