ドミニク・ローラン
2000年6月25日 et 2000年6月28日
場 所    神奈川県内小田急線沿線某所
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC赤ワイン
生産者 Dominique Laurant (Nuis St Georges)
Vintage 1997
テーマ 水平ティスティング  (価格は6,000円から10,000円以内 但し都内では20,000円超)
ワイン Gevrey Chambertin VV
Nuits Saint-Georges Numèro 1
Nuits Saint-Georges 1er Cru Les Roncières
Pommard 1er Cru La Refène
Morey Saint-Denis 1er Cru Clos Sorbets


今回は一流ネゴシアンとして日本でも大人気のドミニクローランの水平テイスティングを 伊勢原と藤沢の某所にて経験した。前回のロベールグロフィエとは水平の意味合いも異なり、 大変興味深いものだった。ドミニクローランといえばテロワールを重視し、その場所で 一番出来のよかった葡萄を買い集め最高のワインに仕立てることで有名だ。200%新樽使用など 話題に事欠かない。ドミニクローランのワインは確かにおいしい。畝ごとに選別された最高の 葡萄から畑の個性に忠実なワインが作られるだけあって、その場所の最高の味を作り出している。 しかし作り手の個性は消している。テロワール内の複数の作り手のワインをブレンドするため、 個人の個性は二の次にして場所の個性を最優先させているのだ。おいしくないはずはない。 香・色・味の三要素を非常に高いレベルで維持している。

しかし、と敢えて言いたい。 ドミニクローランのワインは三拍子そろった美しい球のような形をしているため、 心にひっかかるものがない。歪さがなく、ごつごつしたひっかかりがない。癖がない。 過去にずば抜けた個性のワインに魅了されたためか、卒がないワインに今ひとつ心が 揺さぶられない。たとえば、プロ野球でも一流のバッターは三振する姿も美しかったりするし、 落語の師匠が演台で疲れのあまり眠ってしまっても客はその寝息を楽しんだりできる。 飛び抜けた個性は、それが本筋から外れていても魅了するものなのだ。ローランのワインには それが足りない。品がよくおいしいワイン。食卓を彩るには最高のワイン。ブルゴーニュの特徴を 知るには教科書のようなワイン。都内有名デパートでは高値で取引されるワイン。みんなに 愛されるワイン。そんな印象をもった。

なんだか誉めているような、けなしているようなわからなくなってきた。「うまいが一番」 でもあるし、「うまけりゃいいってもんじゃないだろ」ってのもある。いつ、何処で、誰と 飲むか。考えると楽しい。ドミニクローランの楽しみ方のひとつだと思う。

Gevrey Chambertin VV  ジュブレシャンベルタン 古木
このワインはすばらしい。濃くって強くってジュブレを象徴するいいワインだ。この村に ありがちな野暮なところがなく、強いアルコールと赤系と黒系の色がうまく混ざり合っている。 食事に合う。食卓をきれいにまとめたいときに一本欲しい。 乾燥した土壌香が徐々にでてくる。たぶんいつ飲んでも何とあわせてもおいしいと思う。

Nuits Saint-Georges Nume`ro 1  ニュイサンジョルジュ キュベNo.1
ニュイサンジョルジュのキュベNo.1と銘打った自信作。このキュベに漏れるとキュベ  トラディショナルとして販売されるそうだ。商売上手。ワインは黒系の色合いで、湿った土壌香。 ぬめっとするタイプで、これもこの村の典型だ。湿った土臭さは、好みを分けるだろう。 初心者には田んぼに落ちたときにベソかきながら服にこびりついた臭いを連想させるし、 通にはこの癖のある香がわからないうちは、まだケツが青いぞと言いたくなる。私に言わせれば、 騙し絵のようなエチケットに笑いを取りつつ、くせのある肉料理にあわせたい。初心者ではなく、 場所の個性の違いに楽しみを感じている人に飲んでもらいたいワインだ。安くはないが、 高くもない。いや都内で買えば高そうだ。

Nuits Saint-Georges 1er Cru Les Roncie`res ニュイサンジョルジュ 1級ロンシェール
格が違う。キュベNo.1と比較して飲むと畑のランク付けに納得せざるを得ない。キュベNo.1は ドミニクローランの基準。このロンシェールはAOCが決めた格付け。場所に忠実なローランの ワインだけにその違いがはっきりわかる。ローランは畑の個性を恐ろしく熟知している。村名の 最高ランクは、やはり一級には及ばないんだということを。格付けの正当性を思い知らされる。 そんな印象をもった。恐るべしローラン。ワインはタンニンが多く、歯茎にまとわりつく渋みが、 心地よい。もったいぶらずたっぷり口に含むと、その味わいが滲み出てくる。全体の印象派 キュベNo.1の個性を際立たせて、品をよくした感じ。

Pommard 1er Cru La Refe`ne       歩マール 1級 ラ・ルフェーヌ
ポマールっておいしいな。やわらかく、カラメル系の甘い香。今飲んでおいしく、3年後に 飲んだらもっとおいしくなっているんだろうな、と将来の味を想像しつつこぼれる笑み。 日本未入荷との情報があるが、なぜかここ日本で飲んでるところが不思議だ。

Morey Saint-Denis 1er Cru Clos Sorbets モレサンドニ 1級 クロソルベ
クロソルベ。うますぎて、このおいしさを言葉にして伝える限界を感じてしまう。INAOグラスから 溢れんばかりの果実香。香の塊が目に見えるようだ。茶系の赤。口に含めば品のいいワイン特有の 心地よさに全身の余計な筋肉がほぐされる。おいしさが顔の表情に出てしまうワイン。 ブルゴーニュの世界に引き寄せられないはずがない。

<<まとめ>>
 今回のドミニクローラン水平テイスティングは6月下旬に立て続けに2度経験した。飲む順番は 違ったが、味の個性は同じ味を複数経験することではっきりしたものとなった。

 グロフィエは毎年同じ畑からワインを造る。同じ畑から同じ技術で造られるわけで、 ヴィンテージの違いは天候の違いでもある。天候次第でワインが変わる。最高傑作ができる 可能性を秘めつつも、天候が厳しければ、ワインも厳しいものとなる。

 かたやローランは同じ名前のワインでも年によって木を変える。その年の最高の葡萄から最高の ワインを造る。はずれは少ないが、造られるワインは毎年違うワインである。ワインをビジネスと して成功させるにはローランの手法だろう。

 まさにボルドー的だ。ボルドーは広大な畑から数種類の品種をブレンドすることで品質を 安定させている。基本的にワインは葡萄以外を原料としない。葡萄の収穫に品質が当然 左右される。よければ大金が入るが不作なら収入は限りなくゼロに近づく。これはリスキーだ。 消費者の立場なら、ヴィンテージの違いも嗜好のひとつだが、生産者にとっては死活問題だ。 ブレンドは味わいもさることながら生産者の商売の知恵なのだ。ブドウ栽培の北限近くの シャンパーニュではさらに収穫年までブレンドする。だからいつ飲んでも同じ品質を保つことが 出来る。品質が同じなら同じ価格で商売できる。

 しかしブルゴーニュは単一品種からワインを造る。赤はピノノワール。白はシャルドネ。 ブレンドは出来ない。たとえば不作のロマネコンティに今世紀最高のメルローをブレンドしたら、 その時点でそれはテーブルワインになってしまう。ロマネコンティはその畑から収穫された ピノノワールからしか造られない。これは厳格に法律で決められているのだ。ブルゴーニュの 多くの畑はさらに遺産相続によって細分化されている。ただでさえ狭い畑と単一品種。 ブルゴーニュにはリスクが多すぎる。しかも生産されるワインは数千本単位しか造れない。 ものによっては初台のオペラシティの観客全員に一本ずつさえ分けられない。オペラシティの 収容人数は1800人。作り手の個性にこだわるのは大変なことなのだ。 そこでドミニクローランの手法が注目される。法律は畑と葡萄は規制しても生産者の個性までは 規制しない。法律を準拠していれば誰が造ってもその栄光あるワイン名を名乗ることが 出来るのだ。ワインはテロワールを守りつづけ、ドミニクローランの商売も安定する。 しかも品質は最高の葡萄のブレンドなので、まずいはずがない。うまいに決まっている。

 ドミニクローランとロベールグロフィエ。作り手の立場の違いがワインの違いでもある。 味の好みは個人に任せるとして、その違いを確かめながら飲むワインは以前より味わい深く なっていたりする。ブルゴーニュの懐の深さ。だから金はかかるがやめられないんだな。

以上


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